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辻褄合わせ

「あの時?」  和人は長いため息をこぼすと、「覚えてないかな?」と首を傾げた。 「僕は、和人さんにあったことは無いです」  首を横に振る。 「彰人の高校の入学式に俺は保護者として参列したんだよ。新入生代表に選ばれたから仕事で行けなかった両親の代わりに俺が行ったんだ。彰人が壇上に上がって、αのフェロモンに誰もが色めき立っている中で微かに強烈な甘い香りを感じた。だけど、俺には確信はできなくてそのまま大学に進学した」  高校を卒業して海外の大学に入学したと桐生からは聞いている。 「まさか彰人の秘書になってるなんて知らなかった。2年前に彰人に会いに行った時、目の前で奪われたんだ。強烈な甘い香りに衝撃を受けた。だけど、目の前で奪われたんだ」  和人は愛おしそうに目を細めて僕を見つめている。 「その後すぐに日本で行われた桐生家の創立記念パーティーで彰人の番が君だって知った。彰人が臆面もなく番だと紹介しているのを知って、君は幸せになったんだと思っていた。だから、追いかけるのをやめた」  引かれ合う運命だけど、出会うよりも先に身を引いた。  引かれ合う運命に抗った。 「だけど、結婚してこっちに引っ越しをすると聞いて、子どももいると聞いた。だけど、相手の名前が違っていた。だから、確かめに来たんだ」  和人はもう一度両手で頬を挟んだ。ゆっくりと口づけをした。すぐに唇は離れた。 「『俺の運命の番』を。奪いに来たんだ」 「遅い……遅いよ」 「ごめん」  謝ってもう一度口付ける。 「僕は、桐生を運命だと思ってた。ずっとそれを信じてた。桐生が僕に惹かれなくても側にいればいつか運命に変えることができると信じてた」  ただひたすら桐生を思い続けていた。 「俺と似た香りに勘違いしたんだ」 「とても、とてもよく似てる」  和人が苦笑いする。 「兄弟だから仕方がないにしても、長すぎる」 「うん。だけど、『事故』だって、ヒートを起こして番になった時、桐生に事故だって言われた。謝られた」  それは僕に深く、深く傷を付けた。  桐生の欲を感じると吐き気や頭痛を起こすほどに。 「だけど、桐生は僕を受け入れる約束もしてくれた。運命の番が現れるまで……数ヶ月だったけど、僕は事故でも間違いなく桐生の番だった」  あのパーティーまでは僕は間違いなく桐生の番だった。  あの日に桐生が運命の番に出会わなければそれは続いていたかもしれない。 「桐生に運命の番が現れたけど、子どもがね、いたんだ。違う相手の子どもだって言われてお互いの為に運命を諦めることにした。桐生は僕を求めてくれた。だけど、僕はそれを受け入れることができなかった」  和人はじっと聞いてくれる。 「桐生の欲を感じるとどうしてだか、吐き気と頭痛に襲われて受け入れることができなかった。バース性の病院でも診てもらっても番になったばかりだと体の変化でそういう症状が出るΩもいるって言われた。しばらくしたら治るって言われた」

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