50 / 63
辻褄合わせ
「今も?」
首を横に振った。
「今は大丈夫」
番を解消したらその症状は治った。
「運命の番が引かれ合うって本当だったんだ。偶然、本当に偶然再会して、彰が、彰人の子どもだって分かったんだよ。一度だけの関係で男のΩに子どもができるなんて奇跡だよ。引き離さない為の子どもだったんだよね。引かれ合う運命に抗うなんてできなかった。桐生は葉山を選んだ」
涙が溢れて溢れる。和人がそれを指先で拭う。
「僕は運命を信じてた。だから、桐生が僕の運命じゃないって分かってた。分かってたんだ」
分かってた。だって、桐生は僕に惹かれたりしなかったから。
「分かってたんだよ。本当は知ってたんだ」
ポロポロと涙が溢れる。耐えてきた想いが溢れて溢れていく。
「ずっと、ずっと……好きだった」
初めて会った時に恋に落ちていた。
「だけど、運命じゃなかった」
報われない恋に囚われて、事故で番になった。
耐えるだけの恋をひとりで続けてきた。
「遅くなって悪かった」
和人が謝ってもう一度触れるだけの口づけをする。
出会うべき運命は他に用意されていた。
違う相手と番っていだけだと、運命は導いていた。
出会うべき相手は他にいると。
「運命に愛される覚悟はできてるのかな?」
「もう愛されすぎて実感しかない」
運命に降り回されている。こんなに遠回りさせらても運命に出会うように、引かれ合うように導かれている。
「俺は甘やかして、束縛するぞ。ドロドロに甘やかすからな」
「僕は、甘えることも束縛されることもされたことがない」
ずっと追いかけるだけだったから。
「愛されたいと望んでくれないか? 俺のものになると。お前の発情期は俺が全部もらう。これから先のヒートも全て」
愛されたいと、受ける側に、諦めることなんてしなくていい。
「もう、逃がさない。運命ごと全て奪う。お前を逃がさない」
掴み取った運命を離したりしない。
和人が手を僕の手をとって顔の両側に指を絡めて押さえつけた。
繋いだ手から甘い痺れが広がる。強く握られて握り返す。
「……愛され、たい」
言葉にするのは簡単だ。だけど、強く求めることは言葉では伝えられない。
身体中から溢れる甘い香り。
それが証明する。
求めていることを。愛されたいと望んでいることを。
「俺の全てを運命に捧げるよ」
噛み付くように深く、深く口づけをされて、舌を絡めて答えた。
ともだちにシェアしよう!