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辻褄合わせ
息が続かなくて身体が痙攣する。
「あああ、あっ……ああっ…んっ」
イキ続けて身体が震える。はぁはあと荒い息を注いで、ベッドに身を預ける。
「もう一度」
中に入れたままの和人がそのままゆるゆると動き出す。一度おさまった熱は簡単に煽られてすぐに熱い甘い香りが爆発した。
和人が誰かと電話で話している声で目が覚めた。
僕は裸のままベッドに横になっていて、その横に座った和人が電話をしていた。
電話の相手はすぐに桐生だと分かった。
「……それはできないなぁ」
上機嫌で話している和人が、目が覚めた僕に気がついて頭を撫でる。
「ああ、そうだなぁ。夕方には一度連れていくから」
夕方? 今何時なのかと部屋を見渡しても時計が見つからない。携帯もない。窓の外は明るくて時間を知ることもできない。一晩はここに泊まってしまったのは確かだ。
「仕事は……」
慌てて、「桐生と変わってください」というが、和人は、「また後で」と切ってしまって、スマホを遠くのソファーに投げてしまった。
「今、今何時ですか?」
慌てる僕に、「大丈夫だよ。彰人は今日は仕事が休みだって言ってたし、ひなたも休みだって言ってたよ?」と説明した。確かに今日は仕事は休みだったけど、持ち帰った仕事が残っていたはずだ。明日の仕事の資料をまとめておかないと、朝イチの会議までに桐生に目を通してもらっておく必要がある。
「第二秘書? って子がやるって言ったけど」
「……桐生ですか?」
桐生が言ってたのだろうか、資料は確かに僕のカバンの中に入っていたはずだ。
「彰人がカバンごと秘書に渡したって伝えてくれって言ってけど、大丈夫かな?」
カバンごと……。他の仕事の資料も入っていたはずだけど、第二ならきちんと分かるだろう。
「大丈夫です。ああ、でも分からないことがあった時にスマホがないから連絡が取れない」
項垂れて枕に顔を埋めた。
「夕方には彰人の家に帰るよ」
「すぐに、帰りたい」
呟くと、「そんなにすぐに帰らなくても、俺を置いていかなくてもいいだろう?」と意地悪く言った。
「置いていくとは言ってないです。僕には靴も携帯もないし、連れて帰ってくれないと困ります」
今、僕の手元にあるのは着ていた服だけだ。
「まだ時間はあるからゆっくりするといいよ」
和人はベッドサイドに置いたあった緑色のガラス瓶を取ると、蓋をとって僕に渡してくれた。起き上がって口を付ける。程よい炭酸の効いた水が喉を潤してくれる。
「昨日の、正確には明け方かな、ひなたが言っていた、『吐き気と頭痛』だけど、思い当たることがあって」
桐生の欲を感じると吐き気と頭痛がしていたと話した。病院で検査をしても分からなかった原因に和人は思い当たる節があるらしい。
「きっと、俺と離れてしまったら再発すると思うよ」
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