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辻褄合わせ
強い意志のある瞳で見つめられる。
「僕は……」
「他に何もいらない。お前だけでいい。俺のものになれ」
言い訳なんてさせてくれない。遮られて強く抱きしめられる。
「あの、僕は……」
「一言『はい』って言ったらいんだ」
遮られて、見つめられる。
そんな簡単に返事なんてできない。
「俺にも仕事があるし、ひなたにも仕事はある。離れて生活するようにはなるけど、発情期には必ず助けに来るし、いつでも連絡は取れるようにする。毎日電話する」
まるで子どものように和人は言い連ねる。
3つも年上なのにこの人は甘えるのが上手だ。
「長期休暇には旅行に行こう。今年中、年末までに同棲しよう」
「はっ? ど、同棲? 無理でしょう」
慌てて否定する。
「ここまで飛行機で2時間かかる。この辺りの治安はいいけど、仕事をするなら俺の方に近い方がいい。彰人だってこっちに引っ越してくればいい。日本に行くのもこっち方が便利なんだから」
「そんなこと桐生はできないと思いますよ。オフィスもこっちにあるんですから」
「ああ、俺、耐えられそうにない」
ぎゅうぎゅうと抱きついてくる和人に、「2時間なんてすぐですよ」と言った。
車だと4、5時間はかかるが、飛行機なら2時間かからないはずだ。
和人はまだ何か言いたそうにしている。妥協案を探しているのかもしれない。
戯れ合うように和人がぎゅうぎゅうと抱きしめてくるのがおかしくて笑うと、「ひなたって笑うんだ」と和人が動きを止めた。
「僕だって笑います。その、名前で呼ぶのやめてください」
呼ばれなれなくて、どうしても抵抗がある。
「かわいいよ」
「可愛くなくていいです。人前で呼ばないでくださいよ」
「じゃあ、俺だけ、俺だけ呼んでいい?」
「嫌です」
言い返すと、「気をつけるから。俺だけ、俺といる時だけ、呼ぶ」と機嫌よさそうに言った。
「か、勝手にしてください」
和人はにっと意地悪く笑った。
「ひなた、ひなたぁ、ひなぁ〜」
「や、やめてくださいって言ってるでしょっ」
抵抗して布団の上の和人を押し退ける。押し退けて薄い布団を身体に羽織ると床に落ちた服を探すが、「洗濯に出したよ。昼過ぎには出来上がってくる」と和人は言ってベットから降りるとバスルームに入って行って、バスローブを取ってきてくれた。
バスローブを羽織って、和人がすでに頼んでおいてくれていたルームサービスの昼食を食べた。
和人はテンションが高いのかずっと喋り続けていて、寡黙な桐生とは正反対な性格なのだと知った。
そして、スキンシップが激しい。和人の言った通り昼食後には洗濯が済んだ服が届けられた。
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