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辻褄合わせ
帰りたいと僕が何度も言うのを和人ははぐらかしていたが、「買い物に行ってから送る」と言って仕方ないという様子でようやく車を出してくれた。
靴がなくてホテルのスリッパを借りた。和人は最初に靴を購入してくれた。
和人に大型ショッピングモールに連れて行かれて、車を止めると、「ここにあるらしいんだよね」とスマホを弄りながらショップが立ち並ぶモールの中を歩く。
「どこに行くんですか?」
「ん? 専門店があるらしいんだよねぇ」
キョロキョロと店の名前を確認しながら進んでいく。
行きなれない場所なのか、初めての場所なのだろう。僕も初めての場所なので和人の後ろをついて歩いた。
「ここだ」
一見ジュエリーを扱っているように見える。並んだ店の端にひっそりと存在していた。
和人は臆することのなく中に入っていくので、急いで後を追った。
「連絡した桐生です」
店員に和人が話しかけると、「ああ、お待ちしてました。どうぞ」と店の奥のテーブル席に促された。
さほど広くはない。
見渡してすぐに分かった。ここはΩ専用の首輪の専門店だ。
「和人さん、僕は首輪なんてしませんよ。今更付けても番にはされないですから」
小声で和人にいうと、「それは困るかなぁ」と和人は言いながら椅子に座って隣に僕座るように促した。
「治安がいいとは言っても、発情期のあるΩを放置はできないし、そんなの俺が心配でたまらない。俺の側にいてくれないなら、これぐらいは譲歩してほしいな」
和人は笑顔を見せる。
首輪は周りにΩだと自己主張しているようであまり好きではない。アクセサリーとしてつけているΩもいるけど、できるだけ性は隠したい。
「選ぶのは白ラインだよ」
白ラインは番や婚約者、約束があるΩの印だ。自身を守るための首輪とは意味が違う。
「お待たせしました。こちらが白ラインのラインナップになります」
店員がやってきて、机の上に数本の首輪を広げた。派手ではなく落ち着いた色使いの首輪だ。その中の細い黒い光沢のないベルト。一本白いラインが入っている。和人は迷うことなくそれを手に取って、「これがいい」と選んだ。
「これだよね?」
僕に手渡す。
一眼で気に入ったものが分かったのか、察知したのか、同意だったのか。
小さく頷いた。
「これをお願いします」
和人は店員に渡して鞄からスマホを取り出すと操作して支払いをしてしまった。値段なんて見ていない。首輪は高価なものだ。自身を守るために丈夫に作られているし、鍵もある。最近はGPSも入っているものもある。
「設定はどのようにしますか?」
設定?
「このプランで」
プラン?
なんのことだかわからなくて和人に渡されたパンフレットを覗き込んだが和人がさっと閉じてしまった。
「プランってなんですか?」
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