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辻褄合わせ

 和人は話さないようだから、店員に尋ねると、「機能の設定プランです。GPSは標準装備ですが、Ω特有の体温感知や移動、睡眠時間等も管理できます」と言った。  スマートウォッチの首輪版といった感じだろうか。 「普通の首輪でいいですよ」  慌てて和人にいうと、「上手に発情期を隠されそうだからね。だめ」と意地悪く笑われた。 「い、いらないです。その首輪」  店員に訴えるけど、和人は、「もう会計は済んでるから」と言った。 「俺は束縛するって言ったよね?」  それは言われたけど、物理的な拘束までは望んでいない。 「こんな管理の仕方は望んでないです」 「じゃあ、今すぐ俺のものになる?」 「ものになるとか、そういうことじゃなくて……」 「じゃあ、着けて」  和人は意地悪く笑う。僕が断れないことを知っているからこんな意地悪をするんだ。  店員が包装されたものを和人に渡した。 「せっかく来たから買い物しよう。今夜は彰人の家でパーティーでもしよう。材料買っていこう」  和人は上機嫌で店を出ると、食品売り場の方に向かっていく。 「ちょっと、確認をしないと……」 「そうだね。じゃあ。連絡を入れよう」  和人はスマホをいじって、「入れたから」と言って僕の手を取った。 「は、離して」  争ってもぎゅっと握ったままだ。こんな人通りの多いところで男同士で手を繋いで歩くなんて恥ずかしい。 「大丈夫だよ。誰も気にしない」  和人は早足で進んでいくと、生鮮食品売り場に行ってレジカゴを用意してようやく手を離してくれた。 「ひなたは料理できる?」 「僕はできませんよ。桐生もできないです。ユキさんならできますけど」 「じゃあ、任せてもらおうかな」  和人は次々に食品をカゴに入れていった。買い物が終わると、「喉が渇いた」と言って併設されたオープンカフェに入った。  座っていると、「電話をしてくる」と言って席を立った。  忙しないし、テンションが高い。  桐生とは全く違う。振り回されて疲れてきた。  それに明け方まで寝ていない。気を失うように眠って起きた時には昼前だった。和人は先に起きていたようだけど、そんなに寝ていたというわけでもなさそうだけど。  運命の番か……。  和人が僕の運命の番なのは確かだけど、惹かれ合うとはちょっと違うかもしれない。  和人の強引さに負けてしまっているような気がする。惹かれ合うとはいうけど、惹かれるほどの時間が必要だ。  桐生と似ている匂いで迫られれば心動いてしまうのは仕方がない。  だけど、こんなに簡単に身体の関係を持ってしまえるほど、僕がゆるいわけではないから、バース性の性ゆえのことだ。きっと。  初対面でなんて、なんて恥ずかしい。  両肘をテーブルについて顔を覆う。

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