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 つまみを何品か造り食べ、酒を飲んでいると、時刻は既に日付が変ろうしていた。芹沢と一緒にいると楽しくて時間の感覚が薄れてしまう。終電は今からでは間に合わない。タクシーを使って帰ることも可能だが、芹沢のアパートから桐野の家までは40分ぐらいあるから、タクシー代は軽く5・6千ほどかかる。桐野にとってはたいした金額ではないが、同じ給料をもらっている者同士、その変の感覚の違いを芹沢に訝しがられるのは嫌だった。だからと言って、今日は土曜日だから一晩泊めてくれないか? と自分から頼むのは流石に心苦しい。 「どうしよう。うっかりしたら終電間に合わなくなったよ」  桐野は困ったようにそう言うと、わざとらしくスマホの画面を見つめた。 「泊っていけばいいじゃん。俺の服でいいならパジャマ代わりに貸してやるよ」  桐野はその言葉が嬉しくて、思わずガッツポーズでもしたい気持ちをぐっと堪えた。 「ごめん。つい楽しくて、時間を気にするの忘れてた」  桐野は正直にそう言うと、芹沢は恥ずかしそうにはにかみながら立ち上がった。 「先に風呂入れよ。俺はここ片付けておくから」  桐野は芹沢がテーブルの皿を手に取り流し台に持っていく後ろ姿を、熱を込めて見つめた。  アルファの桐野はオメガと番になる夢が叶わなかったら、多分親の決めたアルファの女性と強引に結婚させられるだろう。両親は同性愛には不寛容だ。子供を産むことが可能な両性具有なオメガの男性であっても、オメガという忌み嫌うべき存在であることと、同性愛という差別意識から世間体を気にし、桐野が男性のオメガと結婚することを認めないはずだ。  桐野はまだ一度もオメガの女性又は男性と出会ったことがない。噂で聞くと、真実かかどうかは不明だが、運命の番のオメガには出会っただけで分かるという。真実かどうかは不明だが、それが男性か女性かは神のみぞ知る運命だ。なのに、何故自分は同性愛者だという自覚がないのに、ベータである芹沢にこんなにも強く惹かれてしまうのだろう。 「いいよ。俺も手伝う。なんなら時間もったいないから一緒に風呂入るか?」 「え?! それマジで言ってる?」 「あはは、冗談だよ」  ぎょっとした芹沢の顔に桐野は少し傷ついたけど、そんなどんな顔も本当に魅力的だから全然平気だ。  桐野は芹沢を後ろから抱きしめたい欲望を何とか理性で抑えた。 (ダメだ。芹沢はゲイじゃないし、俺だって違うんだから……。)  桐野はこの感情を冷静に捉えようとしたが、まるで頭に花が咲いたように気持ちがふわふわしてしまい、それが叶わない。  桐野は諦めて立ち上がると、自分もテーブルの皿とコップを手に取り、芹沢の隣で皿洗いを手伝い始めた……。

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