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―― 桐野は生徒のテストの採点を早めに終わらすと、芹沢を車に乗せて、原宿までハンドルを切った。二十歳になる妹への誕生日プレゼントを選ぶのは正直自信がない。だからと言って、自分よりセンスが良さそうなわけでもない桐野に頼むには不安がある。でも、芹沢の隣で楽しそうに運転している桐野は、意気揚々と「何がいいかな」とぶつぶつと呟いている。まるで、自分が絶対に良い物を見つけてやるという勝手な使命感を持ちながら。 「芹沢の妹って年いくつ?」 「二十歳になるよ。その位の年頃の子って何貰えると喜ぶのかな」 「へ~、いいな。妹。可愛いだろう? 俺一人っ子だから羨ましいよ」 「そうだね。可愛いよ……たまに生意気でムカつくけどな」  桐野が一人っ子だということを芹沢は今日初めて知った。そう言えば桐野のことを芹沢はあまり良く知らない。どこに住んでいるのかも、家族構成とかも。そんな話は滅多にしないから。しかも、この車といい、あの医者の知り合いといい、桐野にはどこか謎めいた部分がある。多分自分の気にし過ぎかもしれないが、やっぱりちょっと引っかかる。  原宿駅近くの屋外駐車場に車を止めると、若者で賑わう通りにあるショップを、桐野と二人で見て回った。大の男二人が、女子が好む可愛い店に入るのは流石に抵抗を感じたが、桐野は特に気にする様子もなく、ぐんぐんと店の奥に進んでいく。 「おい、本当にお前が決めるのか? 何か当てはあるのか?」  芹沢はそんな桐野の後を慌てて追いかけると、桐野がいきなり足を止めた。 「これだ、これ。お昼にスマホで調べたんだけど、これいいと思わないか? 一つの箱に五つの種類の違うミニ香水が入ってるんだよ。こういうのってお得感があって女性は好きなんじゃないかな」  桐野は可愛らしく花柄で装飾された赤いボックスを指さしながら、興奮気味にそう言った。 「大人の女性になった妹さんにはぴったりだと思うんだけど、どうかな?」 「いいね。いいよ。香水って香りに好き嫌いがあるから、流石に五つあればその内の何本かは気に入るだろうしな」 「なんかその言い方ちょっと気に食わないけど、まあいいか。これいいよね? これにしよ」  桐野はそう言うと、箱を掴み勝手にレジへと持って行こうとする。 「あ、待てよ。金額は? いくらだ? あんまり高いとちょっと」  芹沢は慌ててそう言うと、桐野の腕を掴んだ。 「いいよ。俺も半分出すから。俺からも妹さんにプレゼントさせてくれよ」  桐野は笑顔でそう言うと、レジの店員に香水の入った箱を渡した。 「1万円です」  レジの店員は笑顔でそう言うと、「贈り物ですか?」と聞いてきたから、芹沢は素早く「そうです」と答えた。  桐野はお金を払おうと財布を取り出して開けるが、持ち合わせが無かったのか、気まずそうにクレジットカードを取り出した。 「ごめん。俺がカードで支払うから、芹沢は現金で俺に半分支払ってくれるか?」 「ああ、いいよ」  芹沢はそう言いながら、こっそり桐野のカードを見つめた。多分そのカードはある程度の所得がないと持てないカードのはずだ。以前、たまたまアルファの人間と食事をする機会があった。その時に、そのカードでアルファの人間が代金を支払っているのを見たことがあるから良く覚えている。何故それを桐野が持っているのか。芹沢は桐野に対する疑惑が益々深まっていくことに、ドキドキと心拍数が上がっていく。  自分はぼんやりと突っ立っていたらしく、桐野に背中を叩かれてハッと我に返った。 「ほれ、5千円、俺にくれ」  桐野はそう言うと、芹沢の顔の前に揺らしながら掌を差し出す。 「あ、ああ、オッケー、ちょっと待って」  芹沢は財布からぴったりお金を取り出すと、桐野に渡した。 「ありがとう。桐野。妹にもちゃんと伝えておくよ」 「いいよ。これぐらい。妹さん喜んでくれるといいな」  そう言いながら桐野は、魅力的な優しい笑顔と一緒に、プレゼントの入った紙袋を芹沢に差し出した。

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