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 芹沢は3日連続で仕事を休んだ。流石に管理職も同僚の先生たちも、芹沢の体調を心配し始めた。芹沢はただ体がだるくて動けないという理由を管理職に伝えているだけで、はっきりとした病名もなかった。  桐野の心配は既に極限にまで達していた。何度か携帯で連絡を取ろうとしたが、電源が切られていて繋がらなかったのもある。だから校長に「心配だから様子を見てきてくれ」と頼まれた時は、二つ返事でそれに了解した。ただ、桐野の頭に潜むひとつの疑念が桐野を不安にさせるが、もうそんなことを気にするレベルは優に超えていた。  仕事を早く切り上げて桐野は車に乗ると、真っ直ぐ芹沢の住むアパートへ向かった。アパートの近くの有料駐車場に車を止めると、そこから数分かけてアパートまで走った。3日間も仕事を休んだ芹沢が不安にならないように、学校の状況を少しでも教えてやろうと、カバンの中には来週の行事予定表や会議の資料などを入れてある。ついでに桐野が愛飲している高級栄養ドリンクも一緒にカバンの中に入れた。それで弱った芹沢の体に精を付けさせてあげたいが、体調不良の原因が判然としていないから、そのドリンクに意味があるかどうかは正直分からない。  息を切らしながらアパート前に立つと、勢いを付けて階段を駆け上った。桐野は呼吸を整えながらベルのボタンを強く押した。  部屋の中からは何の反応もなかった。まさか不在なわけはないだろう。誰にも会いたくなくて居留守を使っている可能性もある。もしくは体調が悪すぎて動けないのか。それとも意識を失くしているのか……。桐野の妄想がエスカレートしてどんどん膨れ上がる。桐野は急に怖くなって、芹沢の部屋の扉をこれでもかとガンガンと叩いた。 「芹沢! 俺だ! 桐野だ! いるんだろう? 顔を見せてくれないか!」  他のアパートの住人を気にすることも忘れ、桐野は大声で叫びながらドアを強く叩き続けた。 「芹沢! お願いだ! 少しでいいから、顔を見せ……」  桐野がそこまで言いかけた時、鍵がカチャリ外れる音がした。桐野ははっとしてドアを見つめると、ゆっくりと手前にドアが動いた。 「……うるさい、近所迷惑だ」  芹沢はドアに体重をかけるようにして顔を出すと、苦しそうに眉間に皺を寄せながらそう言った。 「ああ、良かった芹沢。無事で、もしかしたら意識がないのかと思って、俺焦って」 「……何で来た? 俺のことなんかほっとけよ」 「何言ってんだよ。ほっとけるわけないじゃないか。校長に様子見てこいって言われたんだよ。当たり前だろう? 芹沢を心配しない人間なんてうちの学校にひとりもいないよ」 「……そんな同情なんていらないんだよ。俺は大丈夫だから、帰ってくれ」  芹沢は苦しそうに息をしながらそう言った。明らかに大丈夫じゃない芹沢の様子に、桐野はこのまま引き帰ることなどできやしない。 「上がっていいか、渡したいものがあるから」 「だ、駄目だ、帰れ! お願いだから本当にほっといてくれ!」  芹沢は焦ったようにそう言うと、慌ててドアを閉めようとする。桐野は力を込めてそれを制すると、ドアを引き寄せ強引に中に入った。 「何で……帰れって言ったのに……」  芹沢は諦めたように項垂れると、桐野を避けるように背を向けた。その時、芹沢の項辺りから、芹沢がオメガだと知った時に嗅いだ強い香りが桐野の鼻孔を掠めた。  (ああ……そうか、やっぱり……。)  桐野は芹沢が仕事を休んだ理由を複雑な思いで悟った。あの名医でもオメガの発情を完璧に抑えるのは至難の業なのだ。そのぐらい第三の性は、医療界では未知の領域なのかもしれない。

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