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「芹沢……待って」  桐野は部屋の奥に行こうとする芹沢の手を慌てて掴むと、強く引き寄せて背後から抱きしめた。項に顔を寄せると、そこから香る芹沢の強烈なフェロモンに、桐野の頭は一瞬で真っ白になる。 (これがオメガの、芹沢のフェロモンなのか……。)  桐野は、その威力に完全に屈服してしまいそうになり焦った。自分の体が、別物に覚醒したような強いエナジーを感じてしまい、ひどく困惑する。  (体が熱い。血が沸騰するようだ。どうしよう、我慢できなくなる……。) 「離せ! 桐野! 俺に触るな!」   芹沢は桐野の腕の中で藻掻くが、体に力が入らないのか、その程度の抵抗では、桐野の力には全く歯が立たない。 「お願いだ、やめろ、桐野……俺、もう、何度も一人で……ああ、離してくれ! 頼むよ……」  芹沢は苦しそうに息をしながら、自分のままならない発情に狂わされている現状を我慢できずに吐露した。この数日間抱えていた絶え間ない欲情に,芹沢自身が既に限界に達しているように感じた。 「俺でいいなら……お前を楽にさせてやりたい……」  芹沢は芹沢の項にたまらず口を付けると、熱い吐息と共にそう言った。 「ばっ、やめろ! ら、楽にするって何だよ! 本当はお前、心の中でオメガな俺を蔑んでるんだろう? 俺を汚いって、そう思ってるんだろう?」 「思ってない! むしろ逆だ。お前の存在が俺は尊いよ。言っただろう? 俺がお前を守るって。嘘じゃない。俺にとって芹沢は、死ぬほど大切な存在なんだよ」  桐野は心を込めてそう言った。まだ残る理性を両手で必死に掴みながら。 「何でだよ……何で俺なんだよ……俺なんか……」 「俺なんかなんて言葉、もう二度言うな」 「桐野……」 「好きだ。芹沢、愛してる……」 「え?」  あれほど不安で仕方がなかったのに、桐野はもう自分の思いを芹沢に伝えることに何の躊躇いもなかった。芹沢から溢れるフェロモンに頭をやられているのもそうだが、3日間芹沢に会えなかっただけで、桐野の心は死んでしまったように動かなかった。でも、芹沢に会った瞬間、桐野はあからさまに生き返った。力が漲るように自分に対する自信が溢れて、桐野の恐怖や不安は結局一瞬でどうでも良くなったのだから。 「あ、愛してるって、俺を?」 「そうだよ。愛してる。俺は芹沢がオメガでも関係ない。俺は芹沢という一人の男が好きなんだ……だから言えよ、今すぐ。俺を楽にしてくれって。言ってくれよ、芹沢。俺はそれに適う男だろう?」 「桐野……嘘だ。お前はただ俺で性欲を満たしたいだけだろう? だから、そんな嘘、適当について」 「違うよ! 本当に違うから! 今すぐ言え! 俺を抱けって! 早く!」  桐野は、背後から芹沢を強く抱きしめながら叫ぶようにそう言った。芹沢は桐野の熱意に観念したようにゆっくりと振り返ると、桐野の頬を強く両手で挟んだ。桐野を真っ直ぐ見つめる芹沢の目は熱く潤み、内包する強い欲情に必死に抗っているのが痛々しいほど伝わって来る。 「桐野……無理だ、もう、限界だ……頼む、俺を今すぐ、滅茶苦茶に抱いてくれっ」    芹沢は縋るようにそう言うと、切なげに天を仰いだ。桐野は引き寄せられるように、芹沢の艶めいたその白い首筋に目を奪われた。 「分かったよ。止めろって言われても、俺絶対に止めないからな、覚悟しろよ……」  芹沢は桐野の言葉に切なげに頷くと、濡れた唇を誘うように桐野に素早く近づけた……。

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