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日々はどんどん過ぎて、夏休み。 午前から大学で制作に集中して、それから週に3回は映画館でバイトするようになった。珍しくフィルムでの上映もしてる映画館で、映写機の触り方を教えてもらったり、いろんな学びがある。 大学の近所だからか割と学生もよく来ていて、夏休み明けたら学内のどこかですれ違ったりするのかな、とかぼんやり思った。 「澤田ちゃん、これ外に貼ってきてくれる?」 オーナーが、ポスターを持って来た。 「次上映のですか?」 「そうそう。いっぱい観に来てもらえたらいいねえ」 オーナーはそう言ってにっこり笑った。 僕の父より少し歳上くらいに見えるオーナーは、白髪混じりの髭が生えている。大学でやってる学生の展示とかも観に行ったりしていて、僕にとったら本当に信頼できる人というか、理解のある人というか、そんな感じ。 「貼ってきます!」 ポスターを片手に入り口に向かった。 今貼ってあるポスターを丁寧に剥がして、傍に置いた。それから、新しいポスターを広げる。 男性が写ってる…どうやら、ダンサーのドキュメンタリー映画らしい。力強さを感じる画だな、と思うのと同時に、もしかしてこれは、泉さんに連絡する口実になるんじゃないか?って思った。どうしよう、連絡してみるか、でもな、 泉さんには、当たり前に連絡なんてしていない。してないけど忘れてもないし、なんなら校内で見かけないかなって思ってるし、見かけた時にはラッキーって思う。 泉さんはいつも誰かといる。 僕はそれになんとも言えない気持ちになる。 それって嫌だな、と思うのに、泉さんのそばにいられない自分が苦しいし、そのくせに積極的になれない自分も嫌だ。 どうしてこんなに、泉さんに囚われてるんだろう? 結局連絡しないまま、ドキュメンタリー映画の上映は始まった。 フィルムで上映するから、って、チケットのもぎりじゃなくて映写室にスタンバイしている。映写室からは座席が見える。お客さんはパラパラ入っている。そろそろ準備しようと立ち上がった時、入ってきたお客さんに目がいく、 「あ、」 泉さんだ ひとりで、うしろの方の中央の席に座った。 この映写室のガラス一枚隔てた向こうには泉さんがいて、僕はこの上映が終わったら、少しの勇気を出せば、 上映は終わった。 お客さんは出て行く。 ガラス越しに客席をちらちら見ながら片付けた。いつもの倍は早く作業できてる気がする… もういないかも、と思ったら、客席にひとり、泉さんの黒くて丸い頭が見えた。 どうしようか、って思う前に体は動いた。 ガラスをこんこん、ノックする。 びくっ、て肩が跳ねて、こちらを見る。 目が合う。 あ!って表情から、柔らかい笑顔に変わった。 慌てて映写室から出て、客席へ 「透だー!なんで?」 「バイトしてるんです」 「そうなんだ!はー、この映画、ちゃんとスクリーンで観るの初めてだったんだけど、凄いよすぎた。終わっても動けなかった」 泉さんはスクリーンの方を見て、少し考えるような表情をした。 美しい横顔だ。 少しツンとした鼻先と、唇 Tシャツの袖から伸びる腕は白く、しなやか 「また観に来るよ」 「お待ちしてます」 泉さんは手を振って、行ってしまった。

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