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モデルをすることに決まったら、すぐに一度服飾科の棟に行くことになった。服飾科なんて行くことないから、ちゃんと場所を把握できてない。
泉さんと食堂で待ち合わせて、一緒に行くことにした。
「時間まちがえてないよなあ」
「うん、合ってると思うよ」
「みちる来んじゃん」
「忙しいのかも。もうちょい待とう」
「はー、とおるちゃんは優しすぎるわやっぱり」
「そんなことないって」
「いや、優しいよ。癒されるしな。ほんわりしてるからさあ、隣に居たいって思うよ。優しくされたい。ほら、いじめられてたし愛に飢えてんの」
遙に愛を与えてくれる人なんてゴマンといる気がする。それだけ、遙は可愛らしいし面白い人だ。……可愛らしいなんて言ったら、むちゃくちゃ怒られそうだけど…
「はああ、モデルするの緊張するけど、とおるちゃんがそばにいたら大丈夫な気がする。どんな服着さされるのかね…不安しかないわ…あーーー、絶対一緒におらなあかんぞー!知らん人でしかも服飾科のおしゃれな人ばっかのとこでひとりになってみい、俺死んでしまうかも」
「大げさだなあ」
「大げさと違うし!!あーもう手ぇ繋いどこかあ?なあ?」
遙は右側にぴったりくっついて、僕の腕を掴んだ。それで、まるで僕が遙の肩を抱き寄せてるみたいになるように、腕をぐいっと動かした。
「ちょっと遙、こんなくっつく?」
「察してよ!不安やし」
細い肩をさすって、抱き寄せた。
「前髪このまま…下ろしたままでいさせてくれるかな」
「どうなんだろ…そもそもモデルってどんな感じなのかよく分からん」
「そうよなあ…はあーーーこわい」
「遙は大丈夫」
「なんでよ!」
長い前髪からうっすら見える、きらきらひかる美しい形の目も、すらっと通った鼻筋も、その不満そうにとがった薄い唇も、真っ正面から全部見たらみんなきっと見惚れる。隠さなくていいのに。
「はあー、早よ来んかなもう……あ、」
「ん?」
「……あれ、みちるか?」
遙は前髪を耳に掛けた。
視線の先に目をやると、少し遠くに泉さんが見えた。
「なんや女の人いっぱいだな、まわりに」
その通りだ、
「そういう人だったんか、まあ、分からなくもないか、なんかそういう雰囲気感じるわ…あ、」
「ん?」
「…とおるちゃん、好きって言ってたじゃん。どんな好きなの?」
遙と目が合った。
「…分からない…かな、…よく分かんない」
「俺も、好きって難しいなあて思ってるよ」
「誰か好きな子いるの?」
「いや、おらん。友達すらまともにおらんかったもん。とおるちゃんが初めて」
「え!」
「だから俺はとおるちゃんのことむちゃくちゃ好きだけど、そういう好きっていうのと、とおるちゃんがみちるのことを好きっていうのは、なんか違うだろ?」
「そうだね、」
「俺のことは?」
「俺のこと?」
「俺のこと、好き?」
「好きだよ」
「そらそうだよなーーー!!」
ぎゅーっと腕を握り締められて、痛いくらいだ。
腕の中でにこにこ笑う遙はとんでもなく可愛らしい。
遙のことが好きだ。
でも、泉さんのことを好きだってこととは何かが違う。
「お待たせー!!ごめんね、遅くなった」
「おーおー、いいご身分なこと」
そばにきた泉さんに前髪の隙間から睨みをきかせながら、遙は僕の腕から抜け出した。
「俺らにモデルをお願いしたくせに、女の人に囲まれてなんやかんや、遅れてきたな」
「いやいや、同期と話してただけなんだって!もうすぐ制作発表だからさあ、」
「ほったら遅れますよの一言くらい連絡入れたらいいだろ!とおるちゃんは優しいからなんも言わんしな、俺が代わりに怒ってるっ。反省しろよ、みちる!」
「ごめん、ごめんね、気をつけます」
「次やったらモデルやめんぞ、俺は」
「分かった!ごめんね遙。透も、ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「もおおおおおっ」
遙を見たら、唇が思いっきりへの字になってる。
「…どんな好きなの、まじで」
そんなことをもにょもにょ言うから、顔を小さく横に振った。これ以上言わないで、遙
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