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遙はあんな映画を観ても全然動じてなくて、上映終了したら笑顔で「また明日ねー」って言ってお見送りしてくれた。 泉さんとお互いの家がどこかってことをなんとなく話しながら歩いた。 僕も一人暮らしだし、泉さんもそうなのかな、って思い込んでたら実家通いってことが分かった。電車で1時間くらいらしい。 「じゃあ、遅くなったりしたときってどうするんですか?」 「んー、友達と暇つぶしするとか、泊めてもらったりかな」 「なるほど」 「カラオケ行っちゃったりね」 「あ、大丈夫ですか?終電」 「うん、まだ平気。あと40分くらい」 まだ一緒にいたい。 そう言いたいけど、言ったら引かれるかも。 付き合ってるって本当に、そう思ってて大丈夫そうなのかな、 「泉さん」 「ん?」 「…うちに、もし良かったら……や、全然だめでもいいんですけど、その」 「待ってた!行きたい。急だけどいいの?」 「大丈夫です。来てください、むしろ」 「へへ、嬉しい!手ぇ繋ごう」 差し出された手を握った。 家に向かって歩く。 むずむず、繋いだ手が動いて指が絡んだ。 泉さんの方を見ると、泉さんもこっちを向いてる。くしゃっ、て笑顔を向けられて、堪らない気持ちになった。つられて笑ったら、反対の手で腕をぎゅってされた。 「おじゃまします」 「どうぞ。散らかってるかもだけど、」 「広い!」 そう。それはむちゃくちゃこだわった。親に掛け合って、バイトもするから!って。 いつでも思い立ったら絵を描けるような部屋にしたくて、広いワンルームを選んだ。 「いいなー一人暮らし。しかもこんな広いの」 「でも、誰か呼んでなんかするには殺風景でしょ?」 「誰か呼んだことないの?」 「遙くらいかなあ」 「付き合ってる人とかは?」 「……初めて呼びました」 口元に両手を当てて、目をぎゅーって閉じて、 「〜〜〜〜!!!どうしよう、嬉しいっ。へへ、あ、でもいたでしょ?付き合ってる人」 「付き合ってるかどうか分かんないまま、ふわーって始まって、ふわーって終わっちゃう、みたいな」 「いたんだ」 「いたけどなにもなかったです」 「デートは?」 「まあ、……したのかな」 「俺ともしようね」 すっごい咽せた。なんも飲んでないのに咽せた。 笑いながら背中さすられた。 「本当に、思ってるからね?」 「うん、うれしいです」 「あ、あと敬語もいいから。適当で!」 「急にやめられるか分かんないけど…」 「あと、下の名前で呼んでください。っていうか遙なんか会った時から「みちるー」って呼んでたじゃん俺のこと!透もそうして」 可愛らしすぎて直視できなくなってきた… 「好きだよ。ねえ、こっち見て」 「ん、あ」 「名前呼んで」 どんどん、物理的に距離が近づいて、びっくりするくらい、 耳元にあたたかく息がかかって、なんていうか触れたい、そういう、我慢できない感情が湧いて、 「あっ、」 思い切り抱きしめた。 手のひらで髪に、背中に触れた。 なにも考えられない。 「透、」 「キスしたい」 「きて」 人生で数回目のキスだった。 こんな、抑えきれない気持ちと戦いながらしたのなんて初めてだ。どうしたいとか、どう感じさせたいんだとか、そんなこと考える余裕なかった。 気づいたらびしょびしょになってるし、泉さんのことを床に押しつけてた。 肩を軽く叩かれて、少し離れた。 なんかそういう漫画みたいに、唇と唇の間に糸が引いた。自分のはあはあ言う音がすごい。 改めて泉さんを見下ろしたら、引くぐらいやらしく見えた。だめだ、我慢してる、今 「泉さん、」 「だめ、名前」 「充さん」 「透、こんななるんだね」 「嫌だったですか?」 「ううん、全然やじゃない、はあ、どうしよ、」 腕が伸びてきて、首を引き寄せられる。 短く何回も、顔中に柔らかい唇が触れた。 少し離れた隙に隣に寝転んだ。 手のひらで充さんの頬に触った。 目を細めて擦り寄ってくるなんて、猫みたいだ。 「手、おっきいね」 「そうかも」 差し出された充さんの手のひらに、手のひらを重ねた。充さんの手は、女の子ほどではないけど線が細くて白い、かわいい手だった。 「やば、全然サイズ感違うじゃん」 「かわいくて好きです」 「本当?うれしい」 指を絡ませて握った。 「透って、男と付き合ったことある?」 「ないです」 「そっか。じゃあ…どうしたもんかなーって思うよね」 「充さんって、今まで恋人って…」 「え?今は透だけしかいないよ?」 「今は…?」 「……へへへ」 「…結構緩いんだ」 …うっすらは思ってたよ正直! ほっぺたにキスされた。 「透は、女の子とたくさん付き合った?」 「1人だけですけど」 「…へへ」 「充さんは?」 「俺ー?……うーん…嘘ついてもいいことないから言うけど、付き合ってなくても、ふわーっと誘われてやったりすることもある。男の人も、女の人も。恋人は何人か」 「さすがに恋人いるときは、ふわーっとはしないでしょ?」 「時と場合に」 「……えー…」 「え、やだ。別れたくない」 「別れるわけないでしょ」 「キスして?」 唇を押し付けた。 「好きだからね。離さないから、俺」 「じゃあ並行して誰かとそういうことしないで下さい」 「…時と場合に……」 冗談じゃなく本気で、僕多分むちゃくちゃ嫉妬深いかもしれない。そのことをがっつり自覚させられた。 「…嫌になった?」 「嫌です」 「嫌われないようにする」 充さんは起き上がった。 僕は見下ろされる。手が伸びてきて、ほっぺたを撫でられた。むにゅむにゅ触られて、思わず笑ってしまう。 「かわいい」 「充さんもかわいいです」 「へへ、ありがと」

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