13 / 53
13
同じ構内にいるはずなのに、充さんにはなかなか会えない。棟が離れてるから当たり前なんだけど、それでもさみしいと思ったし、やきもきした。
それでもそんなことばっかり言ってられないし、自分はここに何しに来てるんだ!!って言い聞かせながら、油画の作業室で遙と並んで絵を描いている。
僕はもうすぐ出さなきゃいけない課題の仕上げをしてるけど、遙はとっくに終わらせて、なんかデッサン描いてる。
疲れて集中力も無くなってきたから、遙の机の前の椅子に座った。
「何描いてんの?」
そう言いながら覗き込んだら、慌てて隠すみたいに体を動かした。結えた前髪がゆらゆら揺れる。
「なんだよー」
「勝手に見んなやっ」
「人物画?」
「……んーー」
そろーっと体をどかせて見せてくれた。
きれいな人物画だ。目の光がきらきらしてるように見える。…どこかで見たことあるような、
「あー!シノくん!すごいな、むちゃくちゃうまい」
「…はああああ!!きもいよな俺!!自分でもびっくりしてるし、こんな、描いちゃって!」
「なんでよ。僕も充さんの絵描きたいなって思ってるし、遙のこともモデルにしたいけど」
「したいって思うことと、勝手に描くことは違うじゃん!……でも、描きたくなるくらい好き…あれだわ、アイドルの写真買うじゃんか、ああいうノリだわ…」
「自分で描いちゃうんだ」
「そうそう」
「うけんね」
「笑うなよ」
遙は紙を透かせるように掲げて見て、それからもう一度紙の上に鉛筆を滑らせた。大切そうな、柔らかい動きだった。
ともだちにシェアしよう!