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「とおるちゃん、めちゃくちゃ分かりやすいな」
遙と大学のカフェテリアで休憩中。
食堂は構内の奥まったところにあるけど、カフェテリアは門を入って割とすぐにある。どの科の学生も大体ここを通るから、ここに来ている。
「みちるが通るのを今か今かと待ってるだろ、きょろきょろしちゃって」
「いや、遙もそうでしょ?探してるじゃん、目が」
「そらそうだろ…!みちるととおるは付き合ってるからいいけどさあ、こっちは拗らせてる最中だし」
「自分で拗らせてるって言っちゃってんじゃん」
「だって事実だもん」
唇をへの字にする遙を横目に、人通りのある方を見た。
ぴょこぴょこ、って感じで歩いてく人がいて、妙に目を引く…金髪で、
「あ!あれそうじゃない?」
「ん?」
「ほら、シノくん」
「え!!!」
大きな声を出すもんだから、周りの人がこっちを見てくる…!
「あ!」
シノくんはこっちに気がついたみたいで、笑顔でぴょこぴょこ近づいてきた。歩き方の癖がかわいい。あと、なんか前は緊張しててあんまり分かってなかったけど、むちゃくちゃかっこいい。え、シノくんがモデルしたらよくない?
「お疲れ様!……はああ、透ー!」
「え、」
「あ!ごめんね、怜さんが「透の服」って言うから、勝手に透って呼ぶ癖が」
「いや、別に平気…あ、同期だし全然普通に話せたら嬉しい」
「だねー!うわーやばい、絶対かっこいいよ。仮縫いの写真見る?」
シノくんはスマホを差し出した。
画面を覗き込む。
全部真っ黒の服だ…
「ワイドパンツと、スタンドカラーのシャツ、ロングコート。これ、透が着たら凄いと思うよ」
「普段着と違いすぎてよく分かんないんだけど…」
「大丈夫、絶対似合うから。メイクもするし、すっごい印象変わると思う。こういう感じの服も好きになるかも!」
シノくんは目が大きい。瞳の色が少し緑がかってるように見える。そのきれいな目は遙の方を向いている。
「はるちゃん」
「はるちゃん!?」
予想外の呼び方するから、僕が思わず大きい声出してしまった…
「あはは、これも怜さんが「はるちゃんの服」って言うから、癖ついちゃった!はるちゃんって呼んでもいい?」
遙はさっきから静まり返ってる。いつもの威勢の良さどこにいったんだ!
「う、うん」
どうした遙!!
「はるちゃんって、前髪は絶対長くなきゃだめ?」
「あ、いや…そんなことはない、けど」
「ほんと?じゃあ、切っても平気?」
「え、」
「なんかさ、怜さんは「切るのはさすがにあれだけど、どうしよっかなー」って言ってたんだけど、僕的には絶対切った方がいいと思うんだ。好みの問題だけど、はるちゃんってすごいかわいいから、」
あ、地雷だ。可愛いって言ったら怒り出すぞ…!と、思ったけど、遙は怒らない。
「目がちゃんと見えるようにして、アイメイクもしっかりして、そうした方が服とのバランスもいいと思うから…って、怜さんに相談だけどね!僕が勝手に思ってるだけだし……はるちゃん、体調悪い?」
シノくんは遙の顔を覗き込んだ。
遙と並ぶと、ほんの少し遙の方が背が高い。
「はるちゃん?」
黒い髪の隙間から見える耳が真っ赤になってる。
爆発して血が出るのはそっちじゃんか!と思うくらい。大丈夫か、遙…
「体調、悪くないよ」
「そっか、良かった!明日の試着楽しみにしてるね!」
「え、明日着るの?」
「あれ?怜さんから連絡ない?」
「僕、怜さんの連絡先聞いてないな。遙知ってる?」
遙は首を横に振った。
「充さん経由で連絡貰ってたから」
「そっか。もしよかったら連絡先教えて!」
「ぜひぜひ」
「はるちゃんも教えてくれる?」
「あ…う、うん、」
シノくんと連絡先を交換した。
遙はやっぱりガチガチに見えるけど、前に採寸したときどんな感じだったんだろ…
「ありがとう!そろそろ行かなきゃだ。また連絡するね」
「うん。また明日」
「またね!」
シノくんはばいばーい、って手を振って、小走りで服飾科の棟方面に行った。やっぱりぴょこぴょこしてるんだよな。
遙の方を見たら、まだスマホを両手に握りしめて固まってる。
「おーい、はるかー」
「……だめだあ〜〜」
スマホをテーブルの上に雑に置いて、両手で顔を覆った。
「…だめ……シノくんを目の前にしたら動けんようになる…」
「凄かったよ、ガッチガチじゃん」
「そうよ…直視できん…とおるちゃん、おでこにゴープロ付けてよ…ほんでその映像を俺のスマホに映してよ…間接的にシノくんの顔見るし…」
「バカじゃないの…」
「バカなわけあるかい!!至って真面目じゃ!」
「ええーー……はは、シノくんに言ったら笑われるんじゃない?」
「死んでも言うなよ」
「怖いって」
遙は唇を突き出しながら、長い前髪を触った。
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