15 / 53

15

1回目の試着をする日。 遙と充さんと待ち合わせて、一緒に服飾科に向かった。とりあえずバッと着替えさせられて、3人横一列に並ぶ。 とにかく言えることは、充さんも遙も良すぎる。なんでこの2人と僕は一緒にいるんだろ…?って思うくらい、次元が違う。 「透!前向いて」 「あ、はい、」 怜さんとシノくんはこちらを見ていて、色々話してはメモを取っている。 「いずみさあ、ショー終わるまで髪染めたりしないでね」 「分かった」 「あと、首回りと肩、肌が見えるから注意して」 「何に?」 「キスマーク」 「!!!」 「キスマーク!?なんじゃみちる、そんなもんしょっちゅう付けるのか!?」 「付けないって!!おい、怜っ!!!」 ……冗談と思えないんだよな。 充さんの体にそういうの付いてたら、僕はどういう感じになるんだろう?やっぱりすごい嫉妬して、怒るか不貞腐れるかすんのかな。…不貞腐れてしまいそうな気がするな… 充さんは僕と同じく上下とも黒い服。 下はスキニーで、上もタイトな服だけど、なんて名前の服なのかよく分からない。たしかに、首元とか肩がよく見える。 「透、ちょっと髪触ってもいい?」 「はい」 怜さんの手が伸びて、前髪をわしわし触られた。 「透は前髪こんな感じでセットして、…わー、肌きれいだねー!」 ほっぺたを両手でぐにゅぐにゅ触られる。 「うぅ」 「へへ、触り心地いいね」 「怜さん、メイクの色味ってこれでいいですか?」 「うん!」 「了解です」 シノくんはなにやら色々メモしていく。 なんとなく見てたら、書き終えたシノくんと目が合った。 「メイク、僕がする予定!」 「そうなんだ。メイクなんて初めてだけど、大丈夫かな…」 「大丈夫大丈夫!」 シノくんはにこにこ笑って、遙の前に行った怜さんの隣にぴょこぴょこくっついていった。 遙は黒い膝上のハーフパンツに白いシャツで、襟は僕のと同じスタンドカラーだ。 「やっぱりジャケット着てもらおう。その方がバランスいいね」 怜さんは隅のトルソーが着ている服を取って、遙に羽織らせた。 「袖通さなくていいんですか?」 「んー……通してみて」 「はい」 シノくんはすぐに遙のそばに行って、ジャケットを着せてあげる。遙はバキバキに固まる… 「おもしろいね、このジャケット」 充さんが遙を見ながら言った。 「ナポレオンジャケットだよ。丈短めにしたんだけど、はるちゃんにぴったりじゃない?……俺すごくない?少女漫画のキャラみたいになったよ!最強じゃん。バレちゃうね、はるちゃんの良さがみんなに」 「遙の良さもすごいんだけど、怜のその溢れ出る自信がすげえわ」 「でも最高でしょ?……よし、もうちょい変えよう。シャツの袖ちょっと作り直すね」 「はい」 シノくんはまたメモを取る。 それから不意に顔を上げて、大きな目で怜さんを見た。 「はるちゃんの前髪、ピンで留めますか?」 「そうだ!どうしよっかな」 「前話したときに、切ってもいいって言ってくれて。ね?」 「あ、う、うんうん、言った」 「でも、やっぱなんか切らない方がいい気がします」 怜さんとシノくんは、遙にぐっと近づいた。 「髪の毛触るね」 遙はもはや返事もできてない… シノくんは持ってたボードを脚に挟んで、肩から下げたポーチからピンを取り出して口に咥えた。 両手で遙の前髪の形を整えたら、ピンで留めた。 おでこまで全開になってる。 「切ってもかわいいけど、ポンパドール、よくないですか?」 「シノ!うわ!うわー……そうしよう…いいね…」 「あはは、はるちゃんなんて顔してんの!」 遙の顔を見た。 目をぎゅっと閉じて、唇も思いっきりへの字になってる。シノくんは両手で遙の頬を包み込むように触って、親指で目元を撫でるように動かした。 遙はだんだん顔の力が抜けて、ゆっくり目を開いた。 シノくんはにこっと笑ったら、手を離して挟んでたボードを持った。 「もう一回横に並んでみて」 緊張するせいで、ピシッと気をつけして立ってしまう。 「これはまじで優勝。ありがとう。また連絡する!」 怜さんは個性強めな言い方をして、早速作業に取り掛かるらしく、パーテーションの向こうに行ってしまった。 芸術系の人ってやっぱりちょっと変わってるもんなのかな…

ともだちにシェアしよう!