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1回目の試着をする日。
遙と充さんと待ち合わせて、一緒に服飾科に向かった。とりあえずバッと着替えさせられて、3人横一列に並ぶ。
とにかく言えることは、充さんも遙も良すぎる。なんでこの2人と僕は一緒にいるんだろ…?って思うくらい、次元が違う。
「透!前向いて」
「あ、はい、」
怜さんとシノくんはこちらを見ていて、色々話してはメモを取っている。
「いずみさあ、ショー終わるまで髪染めたりしないでね」
「分かった」
「あと、首回りと肩、肌が見えるから注意して」
「何に?」
「キスマーク」
「!!!」
「キスマーク!?なんじゃみちる、そんなもんしょっちゅう付けるのか!?」
「付けないって!!おい、怜っ!!!」
……冗談と思えないんだよな。
充さんの体にそういうの付いてたら、僕はどういう感じになるんだろう?やっぱりすごい嫉妬して、怒るか不貞腐れるかすんのかな。…不貞腐れてしまいそうな気がするな…
充さんは僕と同じく上下とも黒い服。
下はスキニーで、上もタイトな服だけど、なんて名前の服なのかよく分からない。たしかに、首元とか肩がよく見える。
「透、ちょっと髪触ってもいい?」
「はい」
怜さんの手が伸びて、前髪をわしわし触られた。
「透は前髪こんな感じでセットして、…わー、肌きれいだねー!」
ほっぺたを両手でぐにゅぐにゅ触られる。
「うぅ」
「へへ、触り心地いいね」
「怜さん、メイクの色味ってこれでいいですか?」
「うん!」
「了解です」
シノくんはなにやら色々メモしていく。
なんとなく見てたら、書き終えたシノくんと目が合った。
「メイク、僕がする予定!」
「そうなんだ。メイクなんて初めてだけど、大丈夫かな…」
「大丈夫大丈夫!」
シノくんはにこにこ笑って、遙の前に行った怜さんの隣にぴょこぴょこくっついていった。
遙は黒い膝上のハーフパンツに白いシャツで、襟は僕のと同じスタンドカラーだ。
「やっぱりジャケット着てもらおう。その方がバランスいいね」
怜さんは隅のトルソーが着ている服を取って、遙に羽織らせた。
「袖通さなくていいんですか?」
「んー……通してみて」
「はい」
シノくんはすぐに遙のそばに行って、ジャケットを着せてあげる。遙はバキバキに固まる…
「おもしろいね、このジャケット」
充さんが遙を見ながら言った。
「ナポレオンジャケットだよ。丈短めにしたんだけど、はるちゃんにぴったりじゃない?……俺すごくない?少女漫画のキャラみたいになったよ!最強じゃん。バレちゃうね、はるちゃんの良さがみんなに」
「遙の良さもすごいんだけど、怜のその溢れ出る自信がすげえわ」
「でも最高でしょ?……よし、もうちょい変えよう。シャツの袖ちょっと作り直すね」
「はい」
シノくんはまたメモを取る。
それから不意に顔を上げて、大きな目で怜さんを見た。
「はるちゃんの前髪、ピンで留めますか?」
「そうだ!どうしよっかな」
「前話したときに、切ってもいいって言ってくれて。ね?」
「あ、う、うんうん、言った」
「でも、やっぱなんか切らない方がいい気がします」
怜さんとシノくんは、遙にぐっと近づいた。
「髪の毛触るね」
遙はもはや返事もできてない…
シノくんは持ってたボードを脚に挟んで、肩から下げたポーチからピンを取り出して口に咥えた。
両手で遙の前髪の形を整えたら、ピンで留めた。
おでこまで全開になってる。
「切ってもかわいいけど、ポンパドール、よくないですか?」
「シノ!うわ!うわー……そうしよう…いいね…」
「あはは、はるちゃんなんて顔してんの!」
遙の顔を見た。
目をぎゅっと閉じて、唇も思いっきりへの字になってる。シノくんは両手で遙の頬を包み込むように触って、親指で目元を撫でるように動かした。
遙はだんだん顔の力が抜けて、ゆっくり目を開いた。
シノくんはにこっと笑ったら、手を離して挟んでたボードを持った。
「もう一回横に並んでみて」
緊張するせいで、ピシッと気をつけして立ってしまう。
「これはまじで優勝。ありがとう。また連絡する!」
怜さんは個性強めな言い方をして、早速作業に取り掛かるらしく、パーテーションの向こうに行ってしまった。
芸術系の人ってやっぱりちょっと変わってるもんなのかな…
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