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着替えて、じゃあまた!って言って教室を出ようとしたら、遙がシノくんに腕をつかまれてガチガチに固まってた。
「遙、採寸したときもあんなだったんかね」
「さあ……大丈夫かな、あんな固まって」
「シノも困るよな、あんなんなっちゃってたら!」
「ですよねえ…」
腕をギュッとされた。
隣を見たら、にこにこ?にやにや?満面の笑みの充さん。
「ご飯行きたい」
「行きましょう」
「遙も行くかな」
2人で行きたいですけど!って気持ちと、当たり前に遙も一緒に行こうよって気持ちとでふわふわした。けど、充さんが『遙も一緒に』って思ってくれてることが、すごい嬉しかった。
「ガチガチのまま止まってるように見えるけどな」
「ちょっと見てこようかな」
「その方がいいな」
そばに近づいたら、シノくんの目がくるっ、てこっちを見た。
「はっ!別に意地悪してないよ、僕」
「分かってる分かってる!遙、なに固まってんの!」
遙は変な顔をした。悲しいのか、怒ってんのか悔しいのか、……シノくんはぱちぱち瞬きをして、それから遙の腕を摩った。
「嫌なことしようとして、ごめん」
「……何しようとしたの?」
「写真撮らせてもらおうと思ったんだけど…」
「嫌なことっていうか、必要なことだろうけどね…シノくんからしたら…」
「でも、……そう…そうだな……俺、」
変な間ができた。
充さんが息を吸う微かな音が聞こえた。
「………ごめん。俺が悪い。俺が遙を誘ったから。今からでも遅くないし断ろう。代わりの誰か頑張って探すからさ」
充さんは遙にハグをした。
背中をバシバシ叩いて、それからシノくんの方を向いた。
「シノー、モデルしなよー!舞踊科はもう思い当たんないかも。男少ないし、体型も遙に近い奴思い当たんないしさあ」
「んー…怜さんに聞かなきゃ…」
「俺から言うよ」
シノくんと充さんは怜さんがいる教室の奥の方に行った。遙は俯いたまま。
「………どうしても、コンプレックスなんよ、顔…好きになれんくてな、自分が」
「うん、」
「モデルしたら自信つくかもってちょっと思ったんだけど、やっぱり、…だめかも、」
嫌だって思うのに、無理に人前に出る必要なんて全然ない。自信だって、別にモデルしなくたってつけることはできる。そもそも僕らは油画専攻だし、絵を描くことで他人に認められて自信がついて…ってことの方が嬉しいはずだ。
でも、シノくんのことあんな顔して見てたじゃんか!だから、すぐに「やめちゃえばいいよ」って、言えない。
「……好きって言ってたじゃん、シノくんのこと」
「え!あ、いやーーー、しーーーー!!聞こえてまう!!」
「会えなくなるんじゃない?モデルしなくなったら。会う理由ないし」
「………ん…」
「いいの?」
遙は唇を尖らせた。
「シノくんに髪型のこと相談してみたらいいじゃん。ちゃんと話してみたら?」
「緊張する、」
「……僕が充さんと付き合うきっかけをくれたのは遙でしょ?あのとき緊張してたよ、僕も」
「………そおかあ?」
「してたよ!!」
「…へへ、そっか、とおるちゃんも緊張したか、」
「したよ。行こう」
「…うん、行こ」
パーテーションの向こうに、遙の手を引いて行った。
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