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僕と遙のスペースがある油画の教室に、充さんと怜さんとシノくんが来ている。 遙はシノくんに、髪型のことをちょっと相談させて!って勇気をもって伝えたのだけど、まあなんていうか、別にだからって2人きりになって云々…ってこともなく、普通にじゃあ相談しよう!ってことで、なぜかここにみんなで移動してきた。 「普通に服飾の教室でやったら良くない?」 「気分転換したかったんだもん。油画の教室とかなかなか入れないから、見てみたいじゃん。シノ、入ったことある?」 「や、初めてです。すごい、においも違うし、これ…誰が描いたの?」 「これは僕。こっちが遙のスペース」 「へえー……すごいなあ、あんまり絵のことって詳しく分からないけど、近くで見ると質感とか、すごい、おもしろい」 シノくんは立て掛けてあるキャンバスをまじまじ見てる。それから、作業台の上の雑多に広がった紙に目を落とす。 「よし!はるちゃんはこの椅子に座って」 「はい、」 遙は椅子に座って、怜さんは真前に椅子を持ってきて座った。シノくんも慌てて怜さんの隣に行く。 「あ、今更だけど、いずみと透はもう解散でいいよ」 「や!おって!!」 「あ、いて!はるちゃんが解散って言うまではみんなここにいて!」 なんでなんだよ!って充さんは笑って、遙の頭をわしわし撫でてから、端の椅子に座った。 なんとなく僕は自分の作業机からスケッチブックと鉛筆を持ってきて、それから充さんの隣に座った。 「お、絵描くの?」 「ちょっとだけ」 「俺のこと描いて」 「あっち見ててください!遙の方」 「えーなんだよー」 ちぇっ、て言いながらあっちを向いたその横顔を描きたかった。唇を尖らせた、かわいい横顔。 さらっていくように描いた。 好きなところを挙げればキリがない。全部愛おしい。全部写し取りたい。 それから膝の上に乗っている手を描いた。無意識の手のかたちなのかもしれないけど、それすらも美しい。 手を描く間に顔の角度は変わっていて、もう一度その姿を描く。 いつか、もっときちんとモデルになってもらって、おおきなキャンバスに描きたい。その時はどんなふうに描きたいって思うだろう? 「こうしようかな。シノどう思う?」 「すごいかっこいい…かなりダークな雰囲気になるけど、はるちゃんの美しさが埋もれてなくて、服のデザインがちゃんと引き立ちそう」 きりの良いところまで描いて、作業台にノートと鉛筆を置いたら、遙の方を見た。 目の下あたりまで前髪がかかってる、のは、いつもの感じ。でもワックス付けられてるのか、ちょっとつやつやして、束感がある。いつもの感じからもっさりした雰囲気だけが抜けてる…… 目元は黒い。がっつりメイクされてる。 唇は真っ赤。どうやったらあんなにつやっつやになるのか、滴ってきそうなくらいだ。 「はるちゃんも見てみて」 遙は鏡を手渡されて、自分の顔をそろーっと見た。 「うわ!」 「だめ!?」 「い、いや……誰か分からんなと思って…これはすごい…」 「じゃあ、この感じだったら、モデルしてもらえそう?」 「…わがまま言ってすみませんでした…俺でよかったら、やります」 「よかったー!!ありがとねほんと…!全然わがままじゃないよ。いずみみたいに人前に出たいーってわけでもないのに、こうやって協力してもらってほんと助かってる。ありがとう」 「まてまてまて!俺が目立ちたがり屋さんみたいな」 「そうじゃん」 「違うだろっ」 充さんは怜さんにヘッドロック決めてる。仲良しだなー 「よし!じゃあ俺は作業しに戻るね。本当今日はありがとう。解散!シノも今日は終わりでいいよ!」 「了解です!お疲れ様です」 怜さんは教室を出て、4人になった。 「透、描いた絵見せて!」 透さんにノートを手渡したら、うわ!って声出して、それから床にしゃがみ込んで見始めた。緊張する… シノくんは、遙のメイクを拭き取ってる。遙はがちがち。あとは顔を洗いに行くらしく、洗顔料を手渡されて、遙は教室の隅の洗い場に行った。 「ねえねえ、透」 「ん?」 ひそひそ、シノくんが隣に来た。耳元に顔を寄せてくる。 「あれってはるちゃんの机?」 指さした先を見た。 「うん、そうだよ」 「あそこの紙に描いてる絵って、僕?」 あ、あるな。 前に描いてたやつだ。 そうだよ!って言っていいのか、誰なんだろうねー?ってごまかすか…でも、うますぎるんだよな……シノくんなんだもんなあ、どう見ても。 「へへへ、僕かなあ。だとしたら嬉しいな。でもあんなかっこよくないか!」 「や、かっこいいでしょ」 「へー?へへ、なにも出ませんよー?」 これは……こんなん絶対みんな「好き」ってなるやつだ…男女問わず…! 「へへへ…うれしい、褒められた。でも、僕、はるちゃんとあんまり会ったことないのにな。……やっぱり僕じゃないんだな?」 「や!」 言うか…言いたいけどな…!! 「……なんだよー!」 シノくんは僕を見上げた。 大きな目に吸い込まれんじゃないかってくらい、視線が外せない。ずっと見つめてしまう。 「うっ、」 どすん!って背中に衝撃。振り返ったら、遙がすっごい顔で見てる。なんでお前がシノくんとそんな仲良い感じになってるんだ、っていうのが顔面から伝わってくる。恨めしそうな感じ。非常に恨めしそう。前髪の貼りつき具合もおばけっぽい。 「前髪びしょびしょになってんじゃん」 「濡れちゃった」 「下手くそかよ」 教室の端に投げ置いてたカバンからタオルを持ってきて、遙の前髪をガシガシ拭いた。 「ゴムは?」 「ある。はい」 差し出された細い手首には、これまたびしょびしょになった髪留めのゴムがあって、勝手にそれを取って、拭いて、前髪を結えた。ほら、なかなか可愛くできた。しっとりした髪が輪っかになってる!ゴムにボンボンかなんか付いてたら3歳の女の子みたいになりそう。 「できた。びしょびしょだから、ちょっとこのままいなよ」 「うん、ありがとう……いや待って、まってまってだめだろ」 焦ってゴムを外そうとする遙の手を、充さんが掴んだ。 「大丈夫大丈夫!メシ行こー。待ってたんだから、遙が準備できんの」 「あれ充さん、ノートは?」 「持ってる。貰うね、これ」 「え!なんで?」 「うれしいからに決まってんじゃんかー!言わせんなよなー」 耳が尋常じゃなく赤くみえる… 「シノも行こ、一緒に」 「え、いいんですか?」 「いいよいいよ!行こう。なんか疲れたから、またスーパー銭湯行く?」 「へー!行きたいです」 遙は物言いたげだったけど、ずるずる引き摺られるみたいにして、結局みんなでスーパー銭湯に行った。

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