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「大丈夫かなあ」
「大丈夫大丈夫」
スーパー銭湯の個室に、遙とシノくんを置いてきた。あー……遙に会うのちょっと怖いもんな…明日普通に会うけど…ボロクソに言われるのでは……
「…あのさあ、俺がいるんだから俺のこと見て」
「見てますよ」
「俺のことだけ考えてよ」
僕の家に来るのは2回目なのに、充さんは慣れてるというか、勝手知ったる、って感じがする。かなり嬉しい。向かい合わせに座った。
充さんはラグの上にあぐらをかいて、テーブルに肘ついて、頬杖ついてる。
「ねーえー、聞いてる?」
「聞こえてます」
小さなテーブルの上にはさっきのノートがある。充さんが持ったまま銭湯に行って、そのままうちに持ってきた。
なんとなく、ペラペラとページをめくった。
「……絵描くときも、あっち向いててとか言ってさあ」
不貞腐れたような声。
「透、俺のこと別に興味ないんじゃないの?」
「え、なんでそうなるんですか」
「だって全然こっち見ないよ?」
「そんなことないですって」
「…シノとか遙のことは、がっつり見んのにね」
思わず充さんのことを見た。
え、嫉妬だ、嫉妬か?
「やっと目ぇ合った」
「そんなわけないじゃないですか、さっきから見てるのに」
「いや、合ってないね」
「えー」
不意に視線が外れる。
怒ってる。
どうしよう、それすらきれいだなんて言ったら怒るかな?怒るよな、
テーブルに肘をついて、体を乗り出した。ほっぺたにキスした。
「充さん、ちゃんと見てます」
「…本当?」
「うん、見てる。目が合うと照れるからあれなだけで」
「照れるのはだめなの?」
「だめじゃないけど、」
目が合った。
両手でほっぺたを包まれた。
「んんん…」
「ちゃんと好き?」
「すきです」
「俺も」
何度か唇に、小さくキスされた。
「会えないとさみしいね」
「さみしいです、ほんと」
「なんで連絡くれないの」
「忙しいかなって思って」
テーブルの上で、両手が繋がった。
「会う日決める?…でもなー、そんなことしなきゃ会おうと思えないってのも変な話だし」
「連絡されたくないタイミングってありますか?それ聞いてたら連絡しやすいかも」
「ないよ、そんなタイミング」
「じゃあ、もっと連絡します」
ふふん、って満足そうに笑うのがあまりにも可愛くて、にやけてしまった。きもいかも。
「ねえ透、こっち座って」
充さんの隣にくっついて座った。
腕を両手で組まれて、肩に寄りかかってくる。
鼻先を充さんの髪に埋めた。いいにおいがする。
「かっこよかった、今日、怜の服着てるの」
「えー、ほんとですか?服かっこいいけど、似合ってない気がするな」
「似合ってたよ。あー…もうちょい今のイモっぽい感じのまま、いてもらいたかったな」
「イモっぽい」
「見つかってほしくないんだもん。油画のさあ、同期の子とかが「え!あれって澤田君じゃん、やばいあんなかっこよかったんだ!」…ってなってほしくない」
「ならないって」
「や!なるよ、絶対。あーあ。今のうちにいっぱいくっついとこ。ちやほやされ出したら俺のことなんか忘れちゃうよ、きっと!」
「そんなこと言ったら充さんだって、なんていうか……ちょっとやらしい雰囲気あるし…なんか肩とかすごい出て、……あ、キスマークつけるなとか言われて!そうだ!キスマークつけるなってなんなんですかあれ!付けてるんですか普段!誰に?誰に付けられるんですか」
「うるさいなあ、付けてこないよそんなの」
「でも怜さんが」
「偶然だよ!去年かなあ?怜が課題で作った服のモデルしたの。服着て、ポートレート作るとかでね。そしたらほんと偶然、なんか肩に付いてたんだって。見えないから知らなかったんだもん」
「付いてたんじゃん」
「うん、付いてたんだってさ。あ、その時の服見る?」
……悪びれる様子もなく、すんっとした顔しながら、スマホをこちらに見せてきた。
これがまた、本当に色気がある雰囲気だ。
なんていうのかな、本当に肩の関節あたりまで見えてて…これどうやって服が止まってるんだろう?女の子がこういう服着てるの見たことあるけど……で、ぶかぶかしたズボンはいてる。
メイクとか光の当て方とか、あと髪も今より長い。そういういろんな要素が相まって、めちゃくちゃ色気が凄く見える。
「感想は?」
「良すぎ、」
「へへー!嬉しい」
「でもキスマークは絶対だめです」
「わかったわかった!了解」
どうやって肩に付けたんだろう、
いや、どうやってもなにも、ちゅーーーってしたからなんだろうけど、でも、それにしても、
この肩にかぶりつきたい、って思う気持ちは痛いほど分かる。それくらい美しくて、心臓を掴まれる。そう思ってるのに、強引にいくこともできない。肩は触れ合ってるのに
「透ー!」
ふざけて、耳にたくさんキスされる。くすぐったい!少し攻防戦をして、それから抱きしめた。
もうどうしようもないくらい、最高の気分になる。充さんは細い。だけど踊ってるからか筋肉はある。服の、布越しからも分かる。
抱きしめるだけで、こんなに満たされた気分になるもんなんだな、
「ねえ、しないの?」
首元でくぐもった声がした。
腕を緩めてもぞもぞ動いたら、充さんは顔を上げた。うわ、あ、かわいい、
そうか、本当に好きだなって思ったら語彙力失うんだな。なにも言えない。今この、自分の見えてる視界の画の中に、自分の声が入ってきたら全部壊れる気がする。
「ねえ」
ほっぺたを触られて、顔が近づく。
唇は触れ合って、自ずと瞼が閉じる。
なにも考えられない。
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