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あれから、遙にシノとのことを聞くこともないまま時間は過ぎた。いつも通り絵を描いて、被ってる講義は並んで聴いて、ご飯食べて…
そういえば遙は最近、本屋さんでバイトを始めた。僕のバイト先と近所な上に、勤務の曜日も同じだから、なんとなく一緒に晩ご飯食べる…って日が週に4日もある。しかもそのうち2日は土日。遙に会わない日がほぼない!でも別に嫌だってことも全然ないし、一緒に居すぎだろ!って思うこともない。つくづく、ありがたい友達だよなーって思う。
バイトがない日は充さんにメッセージを送って、会えたら会うし、メッセージのやりとりか電話だけの時もある。大学では相変わらず滅多に会うことはないけど、たまに食堂で見かける日には必ず女の人と食べてて、とても声を掛ける気になれずにわざわざ離れた席に座る。で、遙が悪態を吐く。今がそれ。
「ほんまなんなんあれ?彼女のフリしてやあーって言われてるダミー彼女?」
「ダミー彼女…」
「え、それかあっちが本物の彼女で、とおるちゃんはダミー彼氏か?」
「ダミー彼氏!それ必要…?」
「はは、いらんか!そもそも、ダミーが要らんよな」
「要らないな」
「あ、メッセージ来た。シノだ。食堂来るって」
シノとも時々一緒に食堂で食べるようになった。
で、遙とシノは何事もなかったかのように『普通』に友達として仲良くなっていった。
遙は「吹っ切れた」と言ってただけのことはあって、もう変にガチガチになることもなく、僕と話すのと同じように、シノとも話すようになった。
「おーい!おつかれー」
「おつかれー」
へへへーってふたりで笑ってる。仲良しかよ!
「あ、もういよいよ服仕上がった!だから、近いうちちょっと広い教室借りて、歩く練習するかも」
「えーーー、歩き方もなんかあるわけ?」
「ほら、一応ここまで歩いたら止まる、振り返る、歩く、立ち止まってちょっとあっちの方見る、歩く」
「待って!!ちょっとあっちの方見るて何よ!」
「え?服をよく見せる為にやるじゃん」
「はあーーー!やばい、忘れるわ絶対」
「大丈夫!僕そっちの方向で手振っててあげるから!」
「いやいや、シノは出て行くときと帰ってくるときに居ってくれなあかんだろ。あれだ、シノの彼女に手ぇ振っててもらおか!」
……彼女は、いることになってる。
こんなこと言ってるけど、遙は見たことない。存在しないし。
「そろそろ会わせてくれてもいいじゃんかあ〜」
「だめ。取られる」
「誰が取るかよー!取れるわけないだろ!」
取れるわけないな。存在しないし。
「なあー、とおるちゃんだけ会ったことあるとか、そんなんちゃうだろなあ?そしたら泣くぞ俺…」
「僕も会ったことないよ。会えないし」
「なんや、会えない?」
シノはグーで思いっきり肩を殴ってきた。
痛すぎて声も出ない。
「あー、遠くに住んでるとか?それだったら仕方ないなあ」
「そう。仕方ないよ。会えないから、僕の彼女には絶対」
「えーーー。遊びに来るときは遠くから見よー」
遙は例によって唇を尖らせて、頬杖をついた。
シノは遙の顔を見つめて、それから手を伸ばした。
「んっ!!」
それで遙の唇をぎゅっとつまんだ。遙は口を塞がれて、もごもご言ってる。それを見てシノは、へへへ、って笑った。
「もー!なんだよ急にっ」
「へへ、はるちゃんがそうやってムスッとするところ大好き」
遙は見たことない変な顔をした。…多分、遙なりの怒ってる表情だと思う…、
「なんじゃそれ!!」
「はるちゃんの唇かわいいからなあ。へへ、メイクするの楽しみ。透はアイメイクするの楽しみ」
シノはそう言ってにこにこ笑った。
遙はまた唇を尖らせる。
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