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バイトが終わって、いつも通り遙と合流して、今日はうちでごはん食べようってことになった。 うちではホットプレートで適当になんか作って食べることが多くて、今日はもんじゃ焼きを限界まで食べよう、っていう謎の意気込みで買い物をして、家に向かった。 包丁は一本しかないから、交代で死に物狂いでキャベツを刻みまくって、本当に今年はもう二度ともんじゃ焼きは食べるまい…って思うレベルで食べた。 「苦しすぎる」 「だな。調子乗りすぎたな。でもおいしかったー」 「おいしかった!あとやっぱ楽しいね。作って食べるの」 「言えてる」 遙はラグの上に寝転んだ。 「眠なってきた」 「泊まってく?」 テーブルに置いてたスマホがガタガタ音を立てた。着信だ 「あ、」 充さんから。 すぐ手に取って、通話をタップした。 『透?』 「どうしたんですか?」 『…あー、忙しかった?』 「全然大丈夫です。金曜に電話してくるの珍しいなって思って」 『まあね。今なにしてんの?』 「今、ご飯食べ終わったところです」 『そうなんだ。家いるの?』 「うん、家います」 「俺もおるよーー」 遙が寝転がったまま大声で言った。 いやいや、充さんじゃなかったらどうするつもりだったんだ…! 『遙?』 「うん、遙もいます。充さん、もし良かったら来ますか?」 『どうしよう』 「どっちでも。まだなんとなくだらだらしてる気がするし、いつでも来て下さい」 『…わかった。じゃあね』 通話が終わって、スマホをまたテーブルに置いた。 「みちる来るー?」 「どうしよう、って言ってた」 「えー!来たらいいのになあ。っていうか、とおるちゃんさあ、みちると会ってる?」 「会ってるよ」 「いつ会ってるん?なんかほぼ毎日俺と居るじゃんか」 遙は体を起こした。 「バイトない日」 「月水木?」 「のどれか」 「週1!?」 「電話だけして、会わない日もある」 「大丈夫?むちゃくちゃ心配なんだけど」 「なんで?」 「なんでって…」 「充さんが、僕に会ってもいいかなーって思う時に会わないと」 「えー、なんで?」 「会いたい会いたいってぐいぐい行くと鬱陶しいでしょ?僕は毎日でも会いたいけど、充さんも忙しいだろうし、邪魔したらだめじゃん。学祭でダンスの公演するって言ってたし」 「へ!だいぶ忙しいなあ。ファッションショーも出て、ダンスもするんだ?」 「って言ってたよ」 「そりゃ無理できないか、今は。ほんなら学祭終わったら、いっぱいデートできるかもだな!俺、そうなったら今より全然会うの控えめにするから遠慮なく言ってよ!!でも1回だけ一緒に遊ばして」 「1回なんだ」 「そうそう。そんなには邪魔しないって」 へらへらーって笑って、遙はまた寝転がった。 「泊まってくならシャワーしてきたら?部屋着いる?」 「貸して〜」 遙はむくっ、て起き上がって、目を擦りながら浴室に行った。僕は部屋着をクローゼットから持ってきて、畳まれた遙の服の上に乗せた。 食べた後のいろいろを片付けてたら、インターフォンが鳴った。モニターを見ると充さんが映ってる。すぐに玄関のドアを開けた。 「来ちゃった」 「嬉しいです」 玄関に入ってドアが閉まって、すぐに抱き寄せた。それから、頬に唇を押し付けた。 「珍しいじゃん、自分からこんなことしてー」 「来てもらえて嬉しくて」 頭をわしわし撫でられた。 体は離れて、充さんは靴を脱ぐ。 「遙もいんの?」 「うん、今シャワーしてます」 「ふーん」 「さっき死ぬほどもんじゃ焼き食べたら、お腹いっぱいで眠くなっちゃって、泊まってくって」 「そうなんだ」 「充さんも、居てくれますか?」 部屋に入っていく充さんを後ろから抱きしめた。 「居ていいの?」 「当たり前じゃないですか、会いたかったし!こっち向いて」 充さんは腕の中でくるりと反転した。 真正面から顔を見る。ため息が出るほどきれい。 「透?」 る、って形づくる唇にすぐ、唇を押し付けた。柔らかい。んー、ってハミングみたいに声が漏れるのを聴くと我慢できなくなる。下唇を少し噛んで、舌で何回もなぞった。少し離れてはまたくっついて、絡まる。やっぱり好きすぎるな、って思った。 「……おしまい」 充さんはそう言ってハグをした。背中をぽんぽん叩かれる。そっと離れた。 「透、あのさ、」 「あ、みちる!」 遙がタオルで髪を拭きながら出てきた。 「来たんだ!よかったあ…」 「なんだよ遙、俺に会いたかったのー?」 「最近会ってなかったから、会いたかったよ。見かけてはいたけど、遠くにいると声かけにくいからなあ、みちるは」 「なんでよ」 充さんは遙の手からタオルを取って、髪をガシガシ拭き始めた。そのまま部屋に入って、ラグの上にふたりは向かい合って座った。 「なんか女の人とおるし、やっぱりあれよ、眩しすぎて近づけんわ。次元が違うのよ、俺とは」 「何言ってんの。すぐ目の前にいるでしょ?しかも髪の毛拭いてあげてるし」 「うん…ちょっと頭皮が痛いわ…」 乾いた!って言って、充さんは遙の頭を撫でた。 「女の人は、舞踊科の人だよ。なんもないよ、本当に」 「ほんとかあー?心配よ俺は。とおるちゃんのこと忘れてないか?って思っちゃうわけよ」 「忘れるわけないでしょ!やめてよね」 袖を引っ張られて、充さんの隣に寄りかかるみたいに座った。腕が回ってくる。服の隙間から手が差し込まれて、直に背中を撫でられた。遙からは見えない。

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