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学祭の日になった。 ファッションショーは15時から。今14時半。吐きそう。 控室で、もう完全にメイクされた状態で服もちゃんと着てる。遙も、充さんも。 遙は例によってガチガチになってる。シノは遙の隣でにこにこ笑ってる。 「はるちゃん、絶対大丈夫だよ。完璧だもん。全部完璧。だから、安心して歩いてきて」 うわー、それ僕にも言ってほしい… 「いや…もう服の上にゲロ吐きそうだわ…どうしよ……」 「吐くのはほんとやめて」 「え、歩いた後どこで止まったらいいんだった?下見たらだめなんだったよな?そんなもんどこで止まるか分からんやないかい!!とおるちゃん、分かってる!?」 「え、一応…なんとなくふわっと…」 「おいーーー!!教えろやあっ!!」 遙はぽこぽこ肩を叩いてくる。全然痛くない。 「はるちゃんはるちゃん」 「ん?」 「客席見てたら大丈夫だよ」 「え、…え!なんや、あれか、彼女か!?来ることになったの?」 「えっ、無理」 シノが背中を叩いてきた。ボコって音がした気がする。痛すぎる。顔を見たら可愛らしい微笑みを浮かべてる…この野郎… 「シノの彼女見るんむちゃくちゃ楽しみー!!手ぇ振っててくれるんよな?どんな服着てくる?分かるかな俺に」 「黒いパーカー着てる」 「うわ、そんなん分かるかなあ」 「ぶんぶん振るから大丈夫だよ、きっと」 誰が振るんだ? 「きっとはるちゃん、好きになるよ」 「え!なんや、横取りするぞー」 「いいよー、好きになっても」 「え、なに、やめてや…彼女とケンカしてんの?なんか怖いて…」 シノは遙の背中をさすりながら優しく笑った。 後ろを振り返った。 パイプイスに座って、ぼんやりしてる。 隣に座った。横顔が見える。 「充さん」 膝の上に置かれた手を握ったら、目が合った。 「どうした?」 「あー…」 切っちゃう、って言ってた。 不調だ、とも言ってた。 今言われた『どうした?』って言葉だけで、ナーバスなことが色々、頭の中を駆け巡る。 「透、緊張してる?」 「うん、します、すごい」 「そっか」 「充さんは?」 「ちょっとするかな。でも、この後がねえ」 「公演?」 「うん」 「観に行きます」 「ほんと?」 「行かない訳ないでしょ」 「じゃあ、頑張らなきゃ」 手は冷たい。温めたくて強く握った。 「その前に、ちゃんとこれもやらなきゃね!あーあ、これで遂に澤田くんの良さが暴かれるんだ」 「やめて下さいよ…!」 「透」 体がくっついた。耳元に唇が近づく。ぬるい息がかかる。 「待ってるから。公演、来てくれるの。頑張るから」 我慢できなくなりそうだった。 すぐにでも抱きしめて、頭おかしくなりそうなくらいキスしたい、めちゃくちゃに 握りしめてる手が、自分だけ熱くてぬるついてる気がする、 顔を横に向けた。唇を近づけたら、 「こら!始まるよ!周りいっぱい人いるしメイク落ちるからキスだめでーす」 怜さんに怒られた。 「安達怜チーム!揃ってる?」 「揃ってます!」 みんなでまとまって、舞台袖に並んだ。 他のモデルさんももう並んでて、僕たちは真ん中くらいの出番みたいだ。 「いずみが1番目、はるちゃん2番、透3番。あ、いずみ、出番終わったらすぐ公演の準備行っていいよ!」 「いいの?」 「うん。大丈夫!俺今日観に行けないから、明日の昼の公演行くね」 「ありがと。待ってる」 始まった。 音楽とか、あと照明とか、なんかすごい。 「こわ!!やばい、歩けんかもしれない…」 「分かる…緊張してきた…」 遙は顔が引き攣ってる。 僕も緊張しすぎて心臓が痛い。 「大丈夫だよ!ふたりとも上手に歩けてたもん」 シノの笑顔が眩しい… 「じゃあ僕、写真撮りに客席行ってるね」 「え!ここにおってくれるんじゃないの!?」 「後で戻ってくるよ。怜さん、行ってきます」 「うん、よろしく」 遙は口がぽかーんって開いて、それから泣きそうな顔になった。 「心細いて!!」 「俺いるじゃん!!信頼してよ俺を!」 怜さんは遙の背中をぽんぽん叩く。 遙は不意に顔を上げた。 「あ、そうか」 「ん?」 「シノ、彼女来てるんだもんな」 ……そういえばどうするつもりなんだろう? 僕が知らないだけで、彼女できたのかな。 前にかなり並んでたはずのモデルの人たちはランウェイを終えて戻ってきてて、あっという間にあと1チーム終わったら安達怜チームの番だ。 …っていうか、安達怜チームって呼ばれてんだな。 今更ちょっと面白く思えてきた… 「透!」 充さんがこっちを見て手を伸ばす。 その手を繋いだ。 そしたら充さんは、僕の手の甲に唇を押し付けて、繋いだ手を解いた。笑顔でひらひら振ってから、前を向いて、歩いていく。まるで光に吸い込まれるみたいに。 「おいー!!手に色付いちゃってんじゃん!!あーもう!」 「怜さんっ、ちょっとやばい、俺ほんまに出る?吐きそう」 「大丈夫だから!!はるちゃんは完璧!いってらっしゃい」 背中を叩かれて、遙も行ってしまった。 「僕も吐きそう」 「透はこれ出た後モテ期突入いってらっしゃい!」 あたままっしろ

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