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あっという間に、ショーは終わった。 歩いてた時のことはぼんやりとしか覚えてない。 歩き終わって戻ってきたら、もう充さんはいなかった。遙は緊張を引きずってるのか、ぼんやりしてる。 緊張の反動でだらだら服を着替えて、メイクを落とす。やっぱり慣れない。 不意に時計を見たら、あと30分くらいでダンスの公演が始まるところだった。そろそろ行ったほうが良さそう。 忙しそうに片付けてる怜さんのところに行く。 「怜さん、ありがとうございました」 「こちらこそだよー!ほんと透に着て貰えて良かった。またお願いするかも」 「えー!」 「慣れたもんでしょ!あ、いずみのとこ行ってあげなきゃだね。お礼したいから、また連絡するね!」 そういえば遙はどうするだろう。シノは服飾科のなんかあんのかな、打ち上げ的なやつとか。 控室まで荷物を取りに戻った。遙とシノがいる。 「お疲れー」 「お疲れ様ー!」 遙がこっちに勢いよく来た。 「とおるちゃん、シノの彼女見た?俺全然見えんかったんだけど!」 「僕、客席見る余裕なかったけど…」 「シノが手ぇ振ってたのは見えたよ?ぶんぶん振ってたの。黒い服だけどよく見えたわ〜」 えー、シノどうするんだ?存在してないんじゃないの?彼女… 「シノー、彼女ってさあ、」 「はるちゃん、好きになった?」 「好きになりようがないじゃんか」 シノは手をぶんぶん振った。黒いパーカー着てる… 「え?どういうこと?」 「いないよ、彼女」 「はい?どういう意味?来てないのに来たとか嘘ついたわけ?」 「…前から嘘ついてた。彼女なんていない」 遙の顔が歪んだ。 「なんの嘘なん!」 「ごめん」 シノが咄嗟についてしまった嘘だけど、遙をバカにするための嘘じゃないことは分かってる。 でも、なんで彼女に会うだのなんだの、 「はるちゃんは僕に『普通』でいてって言ってたよね?僕にとっての『普通』が、はるちゃんのことを好き、」 向こうの方から「片付け手伝って!」ってシノを呼ぶ声が聞こえた。 シノはすぐ行きます、って返事して、遙の顔を覗き込んだ。 「あとて連絡するね」 行ってしまった。 …シノなりに、色々考えちゃったのかな。 初めっから「嘘ついてた」って言うのもちょっと勇気がいるかもしれないし…なんにせよこれって、両思いってことじゃないの? 「とおるちゃん、行こ、」 遙に腕を引っ張られながら、控室を出た。 「遙、」 こっちを見もせず、ずんずん進んでいく。 だいぶ歩いた先でピタッと立ち止まった。 「意味が分からん。俺、もうほんとにちゃんと吹っ切れてた。シノのこと友達だって思ってた。なんで今更、」 「いや、今更じゃないよ。友達として一緒にいるうちに好きになったんでしょ、シノは」 「……んん…」 「普通、っていうのさ、難しいよ」 普通の定義なんて人それぞれだし。自分の普通を他人の普通と思うのはやめた方が健康的だし。 お互いがお互いの普通を思い合って、こんな拗れちゃって。 「夜、電話でゆっくり話しなよ。ふたりで」 「いや、ご飯行きたいな、みんなで」 「………待って、公演始まる」 忘れてたわけじゃない!!けど、やばい、5分オーバーだ!!! 「やばいじゃんか!!行こう!」 遙にまた腕を引っ張られながら、舞踊科の方面までめちゃくちゃ走った。

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