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作業室で、遙をモデルに描いた絵を仕上げてたら、シノと遙が一緒に入ってきた。
遙はすっかり短い髪になってる!しかも茶色い。ふわふわしてる。短くなったけど、黒くて肩までの長い髪だったときより、可愛らしさが増してる気がする…
「かわいいでしょ〜!」
シノは自慢気な顔をしてる!
「僕がお願いしたんだー!似合ってるでしょ?」
「うんうん、よく似合ってる!良かったじゃん、遙」
「……めちゃくちゃ恥ずかしい」
「すぐ慣れるよ。大丈夫」
……この感じ!
シノの屈託ない笑顔に、遙はむっとしつつもやっぱり笑みが溢れてしまう。こういう瞬間って愛おしい。
「あ、フライヤーできたの、置いてきたよ。あとまだこれだけあるから、映画館に置かせてもらってきてよ、透」
「わかった。適当に置いてくる」
「服飾と油画のラボにも置いてきたよ」
「ありがとう」
3人展のフライヤーのデザインはシノが主にやってくれた。ポストカードサイズで、飾りたくなるようないいデザイン。
「あ、そういえば展示の前の週、充さんの公演あるね。透、行かないの?」
……別に気にしてない。
話題に上がったって、そんなの普通のことだし。
「避けてきた話をしれっとしたなあ」
「避けてたって仕方ないでしょ。だって、ねえ?むりやり女の子と遊んじゃって。なんにもなんないのに」
「まこちゃん!言い過ぎ」
「充さん、めちゃくちゃかっこよかったよ。昨日練習してるとこ見てきたけど」
「待って。いろいろ気になる点があるから整理させて」
イスに座り直して、まずシノの方を向いた。
「女の子と遊んでなんにもなんないって、なんで言い切るわけ?」
「事実なんで」
「なんかなるかもしんないじゃん!」
「なるわけないって。透は興味があることにしかキラキラしないけど、女の子といるとき、別にそういう表情してないもん。フラットな感じっていうか」
「キラキラってなに!」
「え?僕たちと遊んでるときも割とキラキラしてるじゃん。あとはやっぱりさあ、充さんといるときだよね」
「………練習見たって、」
「怜さんが衣装担当で、僕も手伝うんだー」
「…へー」
「羨ましいでしょ?間近で観たらほんとかっこよかった。前の公演とはまた違う感じで……あ、透は前の公演も観てないっけ」
羨ましいね、完全に。
もう全然だよ、全然連絡なんか取ってない。学食でそれっぽい姿が見えたら背を向けるようにしてる。今はまだ会えない。
会いたいって叫びたいくらいなのに、絶対そんなの言えない。
モデルとしてフラットな目で見る……とか、そんなふうに思えるようになる気配が全然ない。
「観に行くでしょ?」
行きたい。
「展示する絵ができてるか分かんないし」
「はー、できてるって絶対。行ける行ける」
「あ、まこちゃんってなに?」
「……はい?」
「まこちゃん、って言ってたじゃんさっき」
「ううううるさいなあ」
「僕がそう呼んでってお願いしたんだよ」
シノがキラキラした顔で言った。
「特別な感じで呼ばれたかったから。だって嬉しいじゃん!僕はるちゃんのこと死ぬほど好きだから、呼ばれるたびに嬉しすぎて死んでる」
返り討ちに合うとは思わなかった……
遙はものすごい真っ赤になって、困ったように唇を尖らせた。
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