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夏休み明け、1番大きな絵が完成した。
これが今僕が描ける限界の絵だ、って自分で思えるくらいには、頑張った。
遙をモデルにしたし、遙のことを見ていて感じることも、反映できてると思う。でもそれだけじゃないつもり…自分なりの表現を出せたんじゃないかなって思う。
「100号、でかいなー…」
「邪魔だよねほんと、この作業室には…ごめんね遙」
「や、違うよ。こんな大きいとさ、余白っていうか…なんだろな……俺、こんなうまく構成できんかもと思って…だから、すごいなあって思った。いいなあ、ほんと、すごい」
遙はキャンバスをまじまじと見た。
「これと、ほかにどれ出すの?」
「え?」
「………いやこれだけでも相当すごいなあと思うけど、せっかくだし何点か出せばいいじゃんか!」
「まあ、そうか…」
「あとちょっとしかないけどな、時間」
「遙はもう完成した?」
「ほぼほぼできたよ」
30号のキャンバスに描いた作品、8点が並べられてる。幾何学的な抽象画。緻密で、美しい。
「あとひとつ完成させたら終わりにする」
「これ、テキスタイルにしたくなるね。身につけたい」
「シノにも言われた」
「あれ、まこちゃんって言わないの?」
「言わん!」
「かわいいのになー、呼んでるところ」
「前はつい間違って言っちゃっただけで、いつも言うわけじゃないしな!」
「じゃあいつ言うの?」
「そりゃ……言わんよ、言うわけないじゃん!危なかったー、とおるちゃんの策略にはまってまうところだった…」
「普通に聞いただけだし!」
「いやー、策士だわやっぱり。あ、とおるちゃんさあ、みちるのことデッサンで描いてたよなあ?」
「……だいぶ前の話ですけどね」
「そお?そんな経ってる?いつやっけ、別れたことになったん」
「去年の学祭ですけど」
「ってことは、え!もう一年近く経ったんか!えーーー、早ぁ!全然吹っ切れてないじゃん!」
「うるさいなあ!」
「デッサン、残してるだろ?」
「……まあ、残ってるけど」
「あれ、作品にしたらいいじゃん。10号くらいの小さいサイズでさ、あ!ほら、手いっぱい描いてなかった?いろんなポーズの手。あれを何点か描いてよ!ほんで俺にちょうだい、どれかひとつ」
「え」
「みちるの手、すごい好き。俺とおるちゃんが描く絵も好きじゃんか?だから、好きなんが揃ってたら最高。お願い、俺のために描いて」
遙は顔の前で手を合わせた。あざとい。なにこれ!こんな子じゃなかったのに!髪切って印象も変わって、さらにこんなポーズで、可愛らしい顔まる見えだし!
シノの影響なのかな、これ…
自分の作業台の引き出しを開けて、ずっと閉まっていたデッサンノートを引っ張り出した。
「とおるちゃんのこういうところ、好きよ」
「ありがとね」
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