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展示を終えて少し経った頃、怜さんの卒制に備えて、また安達怜チームで集合した。久しぶりの服飾科。
「服飾科首席で卒業するから、俺」
「なんなのその自信!」
「いずみは舞踊科首席じゃん」
「いやいや」
「俺がお前の卒制で衣装やるから首席取れるでしょ?いずみが俺の卒制でモデルやるんだから俺も首席じゃん」
「……ちょっと言ってる意味分かんねえけどさ」
「はるちゃんと透もモデルだし、なによりシノという超絶優秀な相方がいるからなー」
「へへ」
シノはにこにこ笑いながら怜さんを見てる。
「シノのことは絶対手放さない!」
「自分の課題で大変な時は離れます」
「ですよね!」
怜さんとシノの関係は相変わらずで面白い。
「よし!じゃあ着てもらおっかな、とりあえず仮縫いしてる服。はるちゃんからね」
「はいよ」
「あ、はるちゃんの服、僕が着せてきます。怜さんは透と充さんの分お願いします」
「え、いや、怜さんの卒制だろ?なんでシノが」
「いいの!着てチェックしてもらったらそれでいいんだから平気、ね?行こ」
遙はシノに引き摺られて行く……
「…シノとはるちゃんも、いずみと透みたいにうまくいけばいいよねえ」
「だねえ。どうなの最近」
「シノが空回りしてるじゃん、完全に」
「えー、そうなの?」
「今のとかすげえそうでしょ。シノ、日に日に過保護になってるよ」
怜さんは近くの椅子に座った。もはや服の試着のことなんて忘れてるのでは…?
「はるちゃんが可愛いすぎて心配なのかね」
「あ、でも遙はシノが心配みたいですけど…」
「あー……シノももてるからなー。いずみみたいよ。エグい」
「あ、俺はもうそういうんじゃないから」
「分かる分かるオッケー」
「分かってねえだろ怜!!」
「ちょっと透、いずみにちゅーしてやって!」
「なんでだよ!」
「この場を収めて貰うんだろうが、王子様のキスで」
「……収まるわけないでしょ?ねえ?キスされて収まるって?そこまで怜がバカだとは思わなかったわー」
「バカってなんだよ」
「じゃあ良いわけ?ここでするよ?セックス」
「はい出たーバカはお前だろいずみ!!布汚してみ?殺す」
「殺してみろバーカ!」
「いずみーーー!!!」
……4年のふたりが走り回り始めた…
そうこうしてるうちに、遙とシノも戻ってくる。
「うわ、なにしてんの」
「さあ…」
遙はめちゃくちゃきれいに服を着こなしてきてる。これはぜひデッサンさせてほしい…
シノはスマホを触って、でっかいアラーム音を再生した。笑ってるけど目が笑ってなくて怖い。きれいな顔だから余計に怖い。
「安達怜、まじめにやれ」
「申し訳ない」
「充さん、服着ましょう。来て下さい」
「はい、行きます」
4年達はシノに従ってる…すごい
「はーあ…やっぱ緊張する、シノとふたりきりで着替えるんも緊張したし、モデルするんだーーって思うとそれもやばいし」
「ほぼ毎日一緒にいるじゃん!」
「うん……」
「いつも緊張してんの?」
「とおるちゃんが一緒のときは平気」
「……一瞬うれしいことかと勘違いしかけたわ…うれしくないって…」
「どうしたらいいんだろほんと……あーあ、いいなあ、とおるちゃん!みちると本当にちゃんとくっついたーーって感じするもん」
唇をへの字にして、…多分シノはこの顔見るだけでもニコニコわらって、遙のことが心底愛おしいーーー!って感じになりそうだけどな。
僕が着替える番になって、着せられるがままになった。前の雰囲気とは全然違う。
遙と充さんと僕が並んで、怜さんとシノがチェックしていく。遙が1番目。
充さんと目が合った。
「ふふ、」
「なに?」
「かっこいいなーって思って、普段と雰囲気違うの。ほんとやばい」
「怜さんの服がかっこいいから」
今回はスーツみたいなカチッとした雰囲気がベースにあって、遙はつやのあるブラウスに細身のスーツで中性的なデザイン。女の子ですって言われたら、そうかな?って思うくらい柔らかい感じ。
充さんは色気がすごい…なんていうか、着崩してる感じの、というか…スラックスもビッグサイズだし、こういうのって似合う人なかなかいない気がする。
僕は1番[スーツ]って感じだけど、デザインがかなり独特で…なんていえばいいのかよく分からない……ファッションに疎いしな、相変わらず。
「今日も家行きたい」
耳元で小さく囁かれる。小さく頷く。
「あ、この後みんなでスーパー銭湯行こー。5人で個室取って飲みたいなー!いずみはその後にしてよ、お泊まり」
怜さんのこのデリカシーのなさ……
「……お前はほんとに…」
「いいじゃん!シノもはるちゃんも行くでしょ?」
シノはにっこり笑った…なに、この笑顔、
「行きます!怜さんが奢ってくれるんですもんね。はるちゃんも行こ」
……さすがシノ…
「うん!それだったら俺も行きたい〜」
「何飲もっかなー!明日休みだし結構飲んじゃうかも」
「あーあーあー!!だめじゃん、飲み過ぎはだめでしょ」
「なんでよ」
「いずみは透んち泊まりでしょ?飲み過ぎたらえっちできないじゃん」
「ふざけんな!!できるに決まってるだろっ」
「はー!?ふにゃふにゃで終わるし」
「怜はそうなんじゃん?俺は違う」
「またそんな意地張っちゃって!」
「張ってねえから!!」
遙はため息をついて、ちょっと赤くなってる…
シノは遙の方をチラッと見て、ぽんぽん、って優しく腕を撫でた。それから、すっ、て息を吸った。
「2人ともばかなんですか!!はるちゃんが困ってるからやめてください!」
「だってシノだって飲み過ぎたらさあ、」
シノはグーで怜さんの肩を叩いた。ボコって音がした。絶対痛いやつだ…
「はい、充さんのチェックしますよ。早くしないとゆっくりお風呂入れませんから」
「はい、分かりました…」
遙は我慢できなかったみたいに、くすくす笑い出す。
「あはは!やっぱシノってすごい!」
「そう?ありがとう」
ふたりはふたりなりの仲の良さで、楽しくやってるのかな、って思った。悩むことはあっても、結局それも込みで、誰かを好きになるっていいな…とか、僕自身もそう思うし。…悩んでる最中はつらかったりもするけど!
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