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第5話

今日の客はやたら甘い雰囲気を求めてくる恋人ごっこをしたがる奴で面倒くさかった。 「はぁぁー。なんだか色々設定求めてくる客ばかりだなぁ」 言葉責めが大好きなドM、少し暴力的な行為に興奮するSっ気のある人や、今日のように甘い恋人雰囲気を要望する客。 その他、沢山の要望を伝えてくる客がいた。 どの客も最初こそ、なんだかんだと設定は組んでくるものの、最終的には自分が裸になった途端、理性を失い欲情してそのまま終わるのが定番化していた。 気疲れしながら寮の自分の部屋へ戻ると、汗を流す為にざくろは風呂場へ向かった。 金持ちな学校なだけあり、生徒は全員個室で、風呂もトイレも完備されている。 そのおかげもあって、商売するには最高の環境だった。 だが、ざくろは自分の部屋へは決して、誰もいれることをしなかった。 客が場所指定してこないかぎり、必ず相手の部屋へ出向くようにしていた。 朝、学校が始まる前と昼休み、そして放課後が主にざくろの指定時間帯となる。 今日の客はたまたま昼休みを指定してきたが、大体の客は放課後が多い。 シャワーを浴び終えると、先程脱いだ制服をもう一度着込み、寮からさほど離れていない学校へ向かった。 走れば5分で着く学校は歩けば倍の10分はかかる。 「少し遅れるけど、いっか・・・」 もう少しで始まる午後の授業の時間を別段、気にすることなくゆっくりと支度をして部屋を出た。 授業中という事もあり、校内はとても静かで誰もいなかった。 その静けさを保つべく、足音を立てないように自分の1年A組の教室へと足を向けたが、曲がり角を曲がって階段を登ろうとした時、話し声が聞こえて足が止まった。 「お前、いいかげん仕事溜まってるんだぞ!出てこいよ」 「興味ない」 「興味があるとかないとかじゃない!俺の仕事量が増え続けてるんだ!」 なにやら揉めているようで、立ち聞きするのも申し訳なく感じ、早々に自分の存在を知ってもらう為、そっと曲がり角から姿を見せた。 揉めていた二人の男はざくろに気がつくとハッと顔を驚かせ、口を閉ざして視線を向けてきた。 自分と同じ黒髪に真っ黒い瞳の男は背が物凄く高くて、とても威圧的なオーラを放ってくる。 端整な顔立ちをし、キリっとした目は奥二重の切れ長でとても冷たそうだが、男らしく、ただただかっこいい印象をもたらした。 高く通った鼻筋に少し薄めの唇が意地悪そうに歪められ、ざくろは目を見張った。 「なんだ、この女みたいなやつ」 開口一番、馬鹿にするような蔑む言葉を投げられ、体が固まった。 自分のこの容姿は殆どの人間を魅了する。 だが、たまにこの様に興味を示さず馬鹿にするように嘲笑う人間も勿論いた。 「こらこら、女子がいる訳ないだろ」 黒髪と言い争っていた男が茶化すように答えて、目を向けてきた。 これまた王子様さながらの優しそうな整った容姿を持つ男でざくろは目を瞬いた。 「・・・でも、本当だ。女の子みたいに可愛いね」 優しい笑顔付きで視線を向けてくるこの男の目もまた、黒髪の男同様、ざくろを冒涜するものだった。 ・・・・嫌われちゃったかな 心の中で苦笑しながら、無表情の顔を上げてざくろは二人を見た。 こういった人間には、あまり絡まないように心掛けている。 互いに不愉快な思いしかしないからだ。 「どうも、邪魔してすみませんでした」 顔を隠すように、頭を下げて男達の横を通り過ぎたとき、黒髪の男に腕を掴まれ引き寄せられた。 「ちょっと、待てよ。本当に女じゃないよな?」 不躾にも大きな掌で男はざくろの薄い胸元に手を当てた。 「ちょっ・・・!」 びっくりして体を離そうと腕を振り払うものの、男の力は想像以上に強くて、その手を振り切ることができない。 「こんなひょろっちい男、初めて見たぜ。可哀想な奴」 見下すように笑う男に一瞬不快に顔を歪めたが、すぐにその顔を笑顔へと変えた。

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