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第6話
「本当・・・、あなたみたいに育ってたら男としても楽しかったでしょうね」
皮肉ではなく本音を漏らすと男は驚いた顔をして腕を離した。
「失礼します」
軽く頭を下げ、淡い笑みを残してざくろは階段を登って去っていった。
あの男の言葉に苛つかなかったかと言えば嘘になる。
でも、あの男が言ったことは自分でもそう思ってしまった
女みたいな顔
ひょろくて貧弱な体
人から向けられる目は、ただの性欲処理的な目
自分への評価に自虐的な笑みが浮かんだ
真実、妹がいなければ死んでいたであろう
何故だか、昔から自分自身に全く興味が湧かなかった。
食べる物にも無頓着だし、物欲もない。
ただ、妹だけが生き甲斐だった。
自分の手を、いつも震えて握り締めてくる妹だけをなんとか食わせてやりたかった。
その気持ちは今でも変わらない
妹にちゃんとお金さえ用意できたら、自分はもう用済みだ
こんな穢らわしい自分が兄として生きていたら、妹の恥になるだろう
やるべき事を終えたら、自分は妹の前から消える覚悟だった。
なんなら死んでもいいとすら本気で思っている
ここの学校の人間と同じ土俵に立つつもりなんてハナからない
お金を稼ぎたいだけだ
恵んでもらっているのだと自覚もある
自分の容姿にお金を出してくれる人間だけに、ざくろは頭を下げて擦り寄り、興味を持たない人間には、波風立たぬように距離を置いて存在を消すように徹していた。
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