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第21話

「それでー?ちゃんとそのあきらって子、見つかったー?」 クラブの決算資料をホッチキスで留めながら、楽しそうに九流へ声を掛けてくるのはこの学校の生徒会長、門倉 優一(かどくら ゆういち)だった。 幼馴染みで親友と言っても良いぐらい、お互いの事を知り尽くしている門倉に苛立ちを含む声で九流が答えた。 「見つかってねぇ」 「それは、残念だね〜。っていうか、猛の初恋だね」 「はぁ!?そんなんじゃねーしっ!」 「いやいや、これは恋でしょ!いやぁー、あの猛がねぇ〜」 ニヤニヤ笑ってからかってくる門倉へ手に持っていた処理済みの書類の束を舌打ちと共に投げつけたが、器用に受け止められる。 「仕事も順調で助かるな〜。その西條って奴のおかげだな」 生徒会の仕事をなにかとサボる幼馴染みにいつも頭を悩ませていた門倉だったが、生徒会が管理する個人情報を使い「あきら」という男を探すことを許したことから九流は毎日生徒会室に通うようになっていた。 そこを捕まえて、門倉は溜まりに溜まった生徒会副会長の仕事を毎日こなさせていた。 「お前もあきらって奴、探すの手伝えよ」 「名前だけじゃねぇ〜・・・。せめて名字でも分かればまだ良いんだけど」 パソコンのキーボードをパチパチ叩きながら、明らかに手伝う気のない門倉へ舌打ちすると楽しげな声が返ってくる。 「今度、その西條君って子に会わせてよ」 「嫌だ」 「なに?独占欲って奴?猛が?ウケるんですけどー」 わざわざキーボードを叩く手を止め、指を差してケラケラ笑ってくる門倉を睨みつける。 バンっと机を叩いて椅子から立ち上がると、一部始終を見ていた周りの役員達が焦ったように九流の方へ体を向けてフォローを入れてきた。 「会長のいつものおふざけですよ!さぁ、この書類へサインお願いします!」 「久しぶりに副会長が来てるからテンション上がってるだけです!こっちにもサインお願いしますね!」 「そうそう!九流さんがあの西條にハマったなんて殆どの生徒がもう熟知してることですし、気にしないでこっちの資料に目を通してサインお願いします!」 皆、ここで九流に帰られたら業務が滞る事を恐れ、一斉に慌てるよう仕事を手渡してきた。 帰る事を阻まれ、不愉快さを増した九流は役員全員を睨みつけた。 皆んな一瞬怯むものの、今後の進行状況を思うと引き下がれないと頭を下げ、頼むから仕事をしてくれと九流を拝み倒した。 周りの意気込みを後押しするように傍観していた門倉も助け舟を出す。 「ほらほら、猛!観念して今日も仕事して帰んな」 余裕風を吹かせては、仕事を斡旋してくる門倉へ忌々しげに舌打ちすると、渋々ながら役員達が差し出すプリントを九流は乱暴に受け取った。

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