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第28話

どうしよう・・・ 凄く怖い・・・ 俺が怒らせたのかな? でも、怒らせる様な事をした覚えはない だって、今日先輩と会うのは二回目のはず・・・ 出かけ際はちゃんと挨拶もした。 失礼はしてないと思うんだけど、自分が分かってないだけで不躾な事をしたのだろうか 頭の中で九流が不機嫌な理由をぐるぐる考えるも、全く理由は見つからなくて困り果てる。 そんな時、何かを決心した様に九流は振り返りざくろを見た。 「おい、今日お前、売りしてねーだろうな?」 「え?し、してませんよ!」 だって、契約結んでるし・・・ 予想外の言葉にざくろは驚いた。 今日はあきらと、買い物と遊園地へ行っていたのだ。 妹に体を売ってる事は告げていないので、一緒にいて売りをするなんてあり得ない事だし、帰ってきたら九流の相手もしなければいけないこともざくろは覚えていた。 万全の体調で九流の相手に挑んでも、自分じゃ全く歯が立たない現実を身をもって知っているのに他の男に抱かれている場合ではない。 長い沈黙が続いて重い空気が流れ、小さな声で躊躇いがちに聞いた。 「あの・・・、今日はやめておきますか?」 とてもじゃないがピリピリとしたこの空気の中、そんな艶めかしい気持ちが連携しなくて伺うと、九流はソファから立ち上がって怒鳴り声をあげた。 「テメェが決める事じゃねーだろ」 怒りと比例する九流の声の大きさにざくろはビクッと肩を竦めて萎縮する。 床へ視線を落とすざくろを見て、私服姿なのだと初めて九流は気が付いた。 簡素なTシャツとジーパン姿だったが、制服と違って砕けた印象を受ける。 素直に可愛いと思った。 「お前、もっとマシな服ないのか?」 胸倉のTシャツを乱暴に引っ張り、息を詰めるざくろを一瞥したあと、薄い胸を押すように掴んでいた服を離した。 「今度、俺が買ってやる」 少し怒りが緩和されたような声色にざくろは顔を上げて今日、妹に選んでもらった服を掲げた。 「いえ、今日買ったんです!」 紙袋を奪うと、九流は服を取り出して近くのゴミ箱へ投げ捨てた。 悪くないセンスだったがとにかくケチをつけたくて仕方ない。 「ダッセェな・・・。捨てろ」 あからさまに気を落としたざくろはゴミ箱へ投げ捨てられた服を拾いながら呟いた。 「・・・先輩の前では着ないように気をつけます」 ゴミ箱から服を拾うざくろに舌打ちと共にその服を奪い取って命令した。 「そう言う問題じゃねぇーんだよ!俺が捨てろって言ったら捨てろ!」 「だって、あきらが選んでくれたんだ!」 自分から服を奪い返して、それを守る様に抱き締めて叫ぶその姿に九流は目の前を嫉妬で真っ赤に染めた。 胸倉を掴んで思い切り頬を平手でバシンと叩き、ベッドまで引き摺っていくと、物のようにざくろを投げ飛ばした。 「ぅっ!!」 幸いベッドがふかふかなことから大した痛みはないがざくろの中の恐怖心が膨らんだ。 怯える目で九流を見上げると、鋭い瞳を憎々しげに細めて自分を睨みつけてきた。 「他の男とやっぱり会ってたんだな。この野郎・・・、他の奴とテメェを共有する気なんてないって言っただろうがっ!」 怒鳴りつけると同時に自分の上へ覆い被さってくる九流とその言葉に色々言いたいことはあったが、恐怖心の方が大きくて声が出ない。 「・・・・お前が誰のものか、骨の髄まで分からせてやる」 怒りを押し殺すように吐き捨てる九流を恐怖で揺れる瞳で見上げることしか、ざくろにはできなかった。

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