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第32話

「も、・・・もしもし」 掠れる声を発すると、電話の向こうであきらが驚いた様に息を呑むのがわかった。 『あれ!?お兄ちゃんじゃない!!?あの・・・、この電話、西條ざくろのものじゃないですか?』 焦った声で聞かれ、一度大きく深呼吸してから冷静になるよう努めて答える。 「いや、西條ざくろのもので合ってる・・・。今、ちょっと眠ってて・・・」 『そうなんですか!?お兄ちゃんが人前で寝るなんて意外です!・・・もしかして九流先輩ですか?』 自分の名前を当てられて驚いた。 「ああ・・・」 『やっぱり!今日、帰りに九流先輩と会うってケーキ買って帰ってたから。お兄ちゃん、友達とか作らない人なんでよっぽど仲良しの先輩が出来たんだって妹ながら嬉しかったんです。喜怒哀楽が薄い兄ですけど、仲良くしてあげて下さい。お願いします』 あきらのこの言葉に嫌な予感が見事的中して九流は絶句した。 妹・・・・ 「・・・悪い。あきらって君の事でいいのか?ざくろの妹なのか?」 『え?はい。私があきらですよ。西條 あきら。西條 ざくろの妹です』 嬉しくも激しい頭痛を起こさせるあきらからの返答に九流はベッドの上で無残に転がるざくろへ視線を落とし、額を押さえてその場にしゃがみ込んだ。 マジか・・・・・ 妹・・・・ 嘘だろ・・・ 頭の中で処理しきれない事が押し寄せる中、唯一ハッキリとした事だけは分かっていた。 自分の馬鹿げた勘違いでざくろに八つ当たりをした それも盛大に 額を押さえていた掌で前髪を握り締め、押し寄せる後悔の念に溜息を吐く。 「悪い・・・。ざくろが起きたらハンカチの件だったか?伝えておく」 『あ、はい!宜しくお願いします』 愛想のいいあきらの声がさようならと挨拶すると電話は切れた。 ベッドの上へ携帯電話を置くと、九流は大粒の涙を乗せるざくろの黒く長い睫毛に指を這わせた。 涙はツーっとざくろの頬を伝い流れ落ちる。 九流は申し訳なさに奥歯を強く噛み締めてベッドへ腰掛けた。

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