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第34話
「・・・っ」
シャワーの音にざくろは目を覚ますとあちこち痛む体をゆっくり起こした。
朦朧とする頭でここが九流の部屋なのを思い出す。
側に誰もいなくて辺りを見回すと、シャワーの音が聞こえてきて、風呂場なのだと分かった。
「・・・痛っ」
ベッドから降りようとした時、身体中が痛くて顔を歪め、どんどん覚醒する記憶の中で手酷く抱かれた事を思い出した。
いつも強引で激しく内容の濃い情事だったが、ここまで乱暴にされたのは初めてで怖かった。
「俺、先輩に何したんだろ・・・」
九流の機嫌を悪くさせた理由を必死に考える。
「あんなに怒らせて、理由も分からないなんて・・・」
目尻に浮かんだ涙を手の甲で拭くとゆっくりベッドから降りた。
よろめく足で散らばる服を集めて手早く着込み、九流が部屋へ戻って来るまでに帰ろうと急いだ。
ちゃんと考えよう
九流先輩を怒らせた理由
そして、謝ろう
小さく息を吐くと、怠くて痛む体を動かして荷物を持ち、静かに九流の部屋を出て行った。
「あいつ、帰ったのか!?」
シャワーから戻るとベッドの上はもぬけの殻で九流は愕然とした。
「嘘だろ・・・・」
今日に限って目が醒めるのが早かったざくろに額を押さえる。
舌打ちしてソファに腰掛け、肩から下げていたタオルで乱暴に自分の髪を拭いた。
ふと、テーブルの上に置かれたケーキの入った箱が目に止まり、九流はその箱を引き寄せて開く。
果物がふんだんに使われているタルトケーキとチョコレートケーキが二つ。それらは自分がざくろを叩いた時に床に落ちた衝撃のせいで形を崩していた。
「・・・・・」
ざくろの部屋まで謝りに行こうとソファから立ち上がった九流だが今、かなりの深夜だと気付いて断念した。
「明日の朝にするか・・・」
残念そうに呟いて、箱の中の崩れたチョコレートケーキのクリームを人差し指ですくって舐めとった。
「甘いな・・・」
甘いのが苦手な九流だったが、ざくろが自分の為を想って買ってきてくれたのだと思うと純粋に嬉しかった。
ケーキのお礼も言いたい・・・
九流はケーキの箱を閉めて部屋にある大きな冷蔵庫へしまうと、代わりにペットボトルに入った水を取り出して勉強用の机へ向かった。
机の上は生徒会の仕事の資料が散乱している。
あきらの正体が分からず、何一つ手に付かなかった生徒会業務も今なら出来そうだとストイックな気持ちで九流は仕事に打ち込んだ。
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