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第35話
ざわざわと耳触りなほど賑わう食堂へ足を踏み入れると、いつも顔を出さない九流に生徒達は歓喜の視線を向けてきた。
生徒会副会長をしている九流の知名度はとても高く、加えてその容姿はとても人目を惹くもので少しその気のある男子からはどストライクの対象人物なのだ。
男子校ならではの色恋の視線が絡みついてくるがそんな視線を綺麗に無視して食堂内を見渡す。
もちろん、ざくろを探してのことだ。
だが、残念なことにざくろの姿はなくて九流の眉間に皺が寄る。
食堂の出入り口を一望出来る席へ朝食も受け取らず移動すると、ジッと座ってざくろが来るのを待った。
「あれー?猛!?」
後ろから良く知る声に名前を呼ばれて振り返ると、門倉が驚いた顔で見てきては肩を竦めた。
「珍しいね。猛が食堂来るなんてどうしたの?」
「・・・別に」
ふいっと顔を出入り口へ戻すと門倉は朝食の乗ったトレイを九流の隣に置いて座った。
「なに?なに?西條と待ち合わせ?」
楽しそうに聞いてくる門倉を鬱陶しいと一瞥し、九流は黙り込んだ。
つれない幼馴染みに全てお見通しだと微笑んで、門倉は朝食のクロワッサンを口に頬張った。
「例の件、解決したの?ちゃんと説明して貰えた?」
「・・・・」
「冷静になって西條の話聞いてあげなよ」
「・・・・」
「猛は変に短気だから。直ぐ暴力も振るうしね」
今、言われた言葉に九流が人知れず反省する。
「だいたい、猛はさ〜・・・・」
言い返してこない殊勝な態度の九流に調子に乗った門倉があれこれ畳み掛けるように説教を始めだした。
昨夜から永遠反省し尽くしている九流としては落ち込むのではなく段々苛立ってきてしまい、機嫌を悪くしていった。
「お前、黙ってあっち行け」
「そういう言い方、相手が傷付くよ?」
「傷付いていいからあっちへ行け」
「悲しいなぁ・・・」
「お前、ぶっとばすぞ!」
不機嫌度が達したのか拳を握り締めて怒鳴ると、門倉は食堂の出入り口を指差す。
「あ!西條だ!」
「え!」
振り返って差された方向を見るが、ざくろの姿はなくて九流は必死に探した。
想像以上に必死な九流の姿にクスクス声を上げて笑う門倉がからかうように言う。
「やっぱり、西條のこと待ってんじゃん!猛、可愛いねー」
どこまでも自分をからかおうとする門倉にギリっと奥歯を噛み締めた九流は、食堂内に響き渡るほどの怒声を放った。
「俺があんな淫乱野郎待つわけねーだろっ!!!」
あまりの大きな声に周りは静まり返って、食堂内にいた生徒達は九流を見た。
「あっ!西條だ!」
再び門倉が食堂の出入り口を指差してきて、九流は嘘をつくなと振り返ると、そこには目を丸くして固まるざくろが立っていた。
「あ・・・・」
サッと九流の顔色が青褪めて、同時にざくろは小さく頭を下げて食堂に背を向け、去って行ってしまった。
「あっ、おい!待てって!」
焦って追いかける九流の背中を見た門倉はクスクス笑ってエールを送った。
「頑張れ、猛!」
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