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第42話
「別に好きとか嫌いとかじゃなくて、金額も手頃だし簡単にカロリー摂取できて便利なんで」
「はぁ?」
予想外の理由に九流は目を見開く。
ゼリーを奪って一口含むと舌を出して顔を歪ませた。
「まずっ!!お前、よくこんなの飲めるな?」
安物のオレンジジュースをもの凄く薄めて、苦い薬のシロップが入り混じるような味のゼリーに九流は信じられないとゴミ箱へ捨てた。
「別にこれじゃなくていいなら、こっちの飲め」
買ってきた同タイプの容器に入ったゼリー状の飲み物を手渡すと、ざくろは口付けた。
果物の桃をそのままジュレにした甘くて喉越しのいい高級品のゼリーだったのだが、ざくろの表情はさっきのゼリーを口にした時と同じで無表情だった。
「口に合わないか?」
「え?」
「マズイか?違うのもあるからそれが嫌なら・・・」
ガサガサと別の味のものやアイスを取り出す九流に焦ったように首を横へ振った。
「せ、先輩!?大丈夫です!これで十分です」
ざくろの言葉に手を止めて小さく息を吐き、掌で自分の額を押さえながら聞いた。
「お前の好きなもん教えろ・・・」
「好きなもの?」
「そうだ。好きな食べ物とか飲み物とかお菓子とか色とか服とかいろいろあるだろ」
顔を上げて見た時、少し困った顔をするざくろに九流は目を見張った。
「俺、別にこだわりってないんです。お腹がいっぱいになれば美味しかろうが不味かろうが何も思わないし、お菓子もお腹が空いてたら食べたいけどそうじゃなきゃ別に欲しいとも思いません。色もいつも無難な黒か白しか選ばないし、服も着れたらなんでもいいかな・・・」
「・・・・・」
掛ける言葉が見当たらなくて九流は絶句した。
「九流先輩のように一流のものじゃなくても全然満足しちゃうんですよ。そのマズイっていったゼリーだって俺には大切な食料だしお腹が空いてそれしかないならゴミ箱から拾って俺は飲めるんです。だから・・・」
ざくろは瞳を閉じて本当にどうでもいいように笑った。
「こんなに気を遣わなくていいですよ」
そう言って九流の頬へ手を伸ばし妖艶な笑みを漂わせた。
「・・・・します?」
青白く覇気のない顔色で囁くように聞かれ、明らかに弱り切っているざくろにもかかわらず、九流の下半身は疼いた。
それを気付かれたくなくて、九流は立ち上がり大声で怒鳴る。
「するわけねぇーだろっ!さっさと寝ろ!バカッ!!」
頭をバフっと乱暴に枕に押さえつけて、九流は盛大に溜息を吐いた。
一方、ざくろはパチパチ目を瞬かせて九流を見あげた。
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