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第62話
デパートに着くと九流はメンズ館へざくろを引っ張っていった。
いくつもある高級ブランド店を見て回る中、カジュアルだが品の良い店の前に立つ九流を見かけた男性店員が駆け寄ってきた。
「九流様!お久しぶりです」
常連なのか店員は満面の笑顔で話しかけてきた。
「本日はお友達もご一緒なのですね」
「ああ。俺の服じゃなくて、今日はこいつの見にきたんだけど、似合いそうなのないか?」
店員はざくろを見てその容姿に息を呑んだ。
「また、可愛らしいお方ですね」
男なのか女なのか疑わしい目を向けては来るがここがメンズ館な事でざくろが男なのだろうと察すると、店員は明るいスカイブルーや柔らかなくすみのあるピンク色の襟付きのTシャツ、ボーダーやチェックのシャツ等を持ってきた。
柄物や色鮮やかな服にざくろの鉄壁の無表情が驚きに変わる。
「あの、もっと地味なのないです?黒とか白とかグレーとか・・・」
「え?お客様ならこういった華やかな色味の方が映えますよ?色白ですし!それにこのシリーズ細身に作られてるので体の線も露わになって絶対お似合いになります!」
にこやかに服を推す店員に狼狽えていたら、九流が頷いてそれらの服を指差した。
「じゃあ、それ全部貰うわ。パンツも見繕ってくれないか?」
「畏まりました」
淡々と自分を放って流れるように買い物が進められざくろは冷や汗をかいた。
「ちょ、ちょっと!待って下さい!!こんなの要りませんよ!?」
「じゃあ、ゴミ箱に捨てろよ」
「そんな事、出来るわけないでしょ!?」
「じゃあ、諦めて着ろ」
財布からカードを取り出す九流にざくろは固まった。
「お客様、ちょっと宜しいですか?」
後ろから声をかけられ、ざくろは振り返ると店員がサイズを知りたいと先程のピンク色の襟付きTシャツと白色の麻のハーフパンツを手渡してきて試着してくれと言ってきた。
困惑する中、ただされるままに試着室に入るとざくろはそれらの服の値札の金額に青ざめた。
Tシャツ一枚、2万4千円!!!
クラっと目眩が起こって、足がふらついた。
無理!
絶対無理っ!!
着替える事なく試着室を出ようとした時、扉を押しても引いても開かなくて焦っていると試着室の外から九流の声が聞こえてきた。
「それ、着るまで出てくんなよ」
「あ、あの・・・、俺に似合いません!」
「じゃあ、ゴミ箱に捨てるか?」
「えぇ!?ま、待って下さいよ!買うのやめませんか?」
「もう買ったから無理。サイズだけ合わせろ。いらねーなら本当に後で捨てていいから、とりあえずそれ着て出てこい」
ぶっきらぼうな声で命令され、ざくろは心底困ったように項垂れたあと観念して服を着替えた。
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