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第68話
「ごちそうさまでした」
昼食を終え、店の外へ出てざくろが深々と頭を下げてお礼を言うと九流はその頭をポンポンと叩いて手を繋いできた。
気恥ずかしさはあったが、先ほど自分から腕を組みに行った事を思うと手を繋ぐのに抵抗を感じなかった。
「先輩、お手洗い行っていいですか?」
ちょうどトイレの標識があり、指差して聞くと九流はざくろから手を離す。
会釈してトイレへパタパタと走っていく後ろ姿が可愛いなと、壁に寄りかかってざくろの帰りを待っていると髪の長い二十歳前後の綺麗な女性が声をかけてきた。
モデルのようにスラリとしたスレンダー美女はどうやら海外からの旅行者で、デパートの化粧品売り場が分からず教えて欲しいと頼んできた。
少し離れたデパート内の地図パネルを指差して笑顔で対応してやるとスレンダー美女は嬉しそうに笑って九流へ抱きついてくる。
海外特有の挨拶に九流も軽く彼女を抱きしめ返した。
「先輩、お待たせしま・・・・」
トイレから帰ってきたざくろはモデル張りの美女と楽しげに会話をしている九流に目を見張る。
内容は聞こえなかったが話は盛り上がっていそうで、声を掛けるのを躊躇った。
暫く離れた場所で見守っていたら美女が九流へ抱き着いたのを見て心臓が一跳ねした。そして、九流の腕が彼女を包むその姿に目の前が暗くなった。
「・・・・・」
くるりと背中を向けてとりあえず、逃げるようにその場を去った。
・・・・・あれ何?
知り合い?
ナンパ?
っていうか、先輩の好み?
ってことはあっちも抱き着いてるし、先輩も抱き返してるしカップリング成功?
「つまり、俺って邪魔だよね?」
ポツリと答えを導き出したざくろはスタスタと早足にデパートの外へ出た。
外はもの凄く暑くて、涼しかったデパート内が恋しくなる。
だけど、デパート内へ戻る気が一切ないざくろは手に持っていたキャップ帽を深く被ってポツポツとあてもなくその場から遠ざかるように歩き出した。
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