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第69話
スレンダー美女の旅行者と別れ、九流はざくろを待っていたがなかなか戻ってこないことに不思議に思ってトイレまで迎えに行った。
だが、そこにざくろはいなくて何処へ行ったのかと携帯電話を取り出し電話をかけた。
『もしもし』
直ぐにざくろと通話が繋がり安堵する。
「お前、何処にいるんだ?」
『・・・駅に向かってます』
「はぁ?」
『気にしないでください!デートの邪魔はしないんで!あきらにもちゃんと今日は中止になったって伝えておくんで」
「ちょい待てっ!意味がわかんねーんだけど!?」
『久しぶりの外出なんだし、いつでもいれる俺なんかより女の子との時間を先輩は優先して下さい。今日はありがとうございました。先に帰ってますね』
早口で一方的に告げるざくろに電話を切られて、九流は唖然とした。
ツーツーっと電話が切れた音を暫く聞いて、九流は我に返ると眉間に皺を寄せて瞬時にリダイヤルする。
『お掛けになった電話は・・・』
電源を切ったのかお決まりのうぐいす嬢のナレーションに九流が舌打ちした。
「はぁぁぁー!?何なんだよ、あいつ!?」
悪態つきながらも携帯電話をポケットへしまうと、デパートを出て九流は灼熱の炎天下の中、ざくろを追い掛けて走り出した。
一番近い最寄り駅へ着いたざくろは愕然とした。
俺、無一文なんだった・・・・
財布を持たず寮を出てきたことを思い出してがくりと肩を落とす。
学校の寮へ戻るにはここから5駅もある。
しかし歩いて帰る以外の手段しかないざくろは決心して歩き始めた。
灼熱の太陽の下、地面を見つめて黙々と歩いた。
帽子買ってもらっておいて良かった・・・
っていうか、帰ったらちゃんとお金返そう
プレゼントして貰ったりご飯をご馳走になるなんてやっぱり申し訳ない
変わりばえしない地面を見つめながら歩き、今日の一連の九流との出来事を思い出した。
たった数時間なのに朝から勉強を見てもらったりと他人と密度の濃い時間を過ごしたざくろはふふっと笑顔が溢れた。
「楽しかったな・・・」
ポツリと呟いて、歩くペースを少し落とす。
朝、一緒に起きてご飯を食べて、宿題してお出かけした。
服を買ってご飯をまた食べて・・・
妹のあきら以外との初めての経験に戸惑いも恥じらいも緊張もあったが楽しくて嬉しかった。
甘えさせても、もらえたな・・・
自分の掌を見つめて自分から九流の腕へ抱き着いたことを思い出す。
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