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第72話
「・・・くっそ、イラつく。お前って本当分かんねぇ奴だよな」
店員が置いていったアイスコーヒーを一口飲み、自分を落ち着かせるように九流は一息つく。
両肘をテーブルへついて額を押さえる姿を前にざくろは申し訳なさそうに九流を見つめた。
怒るというより段々と気を落とし始めてきた九流の様子に胸が痛くて小さな声で謝った。
「ご・・・ごめんなさい」
無反応の九流にざくろはもう一度謝った。
「先輩、ごめんなさい・・・」
その謝罪にゆっくり顔を上げて九流は静かに聞いた。
「謝らなくていい。俺と一緒にいたくなかったんだろ?」
「違います」
「じゃあ、ちゃんと理由説明しろよ。お前が何考えてんのか教えろ。言ってくれなきゃ分かんねー。俺はお前と今日出掛けるのすげぇ楽しみにしてた。こうしてデートできて嬉しかった。なのにいきなりいなくなられて電話で帰るって言われて電源切られたんだ。それで一緒にいるの嫌じゃないって訳わかんねーよ」
九流の言うことは最もでざくろは押し黙った。
大きな溜息を吐いてアイスコーヒーを飲み、もうこっちを見ようともしない九流にざくろは膝の上で拳を握りしめ、キツく目を瞑って本音を吐き出した。
「し、嫉妬してしまいました!」
その言葉に九流はざくろを見る。
喜怒哀楽が薄いざくろが耳まで真っ赤にしていて驚いた。
「・・・・・は?誰にってか、いつ?」
嫉妬させることなんてあっただろうかと首を傾げたらざくろはしどろもどろ答えた。
「先輩の知り合いの可愛い2人組の女の子達、先輩と遊びたそうでしたよ・・・。その・・・、行かなくていいんですか?」
「名前も忘れた女について行くわけねーだろ」
「お、俺がトイレ行ってる時、凄く綺麗な女の人と抱き合ってたでしょ!?」
「あれは外国人でデパート内の案内してやったら、ありがとう、さようならの挨拶でハグしただけでそのあと直ぐに別れた。ってか、見てたなら声かけろよ!」
「だって、ナンパされて気に入ったなら俺、邪魔でしょ!?」
「お前のことが好きでお前とデートしてるのに他の奴について行くっておかしくねーか?好きな奴を邪魔扱いするわけねーだろうが!ふざけんなよ!俺、お前が好きだって言ったよな?」
アホかと段々呆れるように告げられざくろは唇を噛んだ。
「っで?誤解は解けたのか?」
ズズーっとアイスコーヒーを全部飲み干すと九流は少し泣きそうなざくろの頭をポンポンと叩いた。
「・・・すみません」
自分の早とちりに情けなくて涙が出そうでざくろは被っていたキャップ帽を深く被りなおし顔を隠した。
「泣くなよ・・・。俺も悪かったから」
何一つ悪くないはずなのだがざくろが泣くのを止めたくて九流はざくろへ謝る。
その優しさが更にざくろの胸をうった。
「・・・・・っ・・・ひっ・・・く、ぅ・・・すみま・・・せ、ん・・」
ポタポタ涙が溢れて手の甲で涙を拭うざくろに九流は困ったなとテーブルへ身を乗り出して涙でぐちゃぐちゃの顔を上げさせた。
ぐちゃぐちゃなはずの顔がとても可愛く感じて、九流はそんな自分に苦笑しながら親指の腹で涙をグイグイ拭ってやった。
「ほら、泣きやめ。俺、まだお前と行きたい場所あるんだ」
優しくそう言うとざくろはコクコク頷いて必死に涙を止めようと努力した。
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