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第96話
「あきら?」
部屋をノックして名前を呼ぶと中から鍵が開く音がした。
それとほぼ同時に扉が開かれて中から出てくる妹にざくろは抱き締められた。
「お兄ちゃん!お帰りなさい!!」
本当に嬉しいと言わんばかりに抱きついてくるあきらを抱きしめ返すと、頬を紅潮させて嬉しそうに見上げてくる妹の頭を撫でた。
「今日から一週間、一緒にいれるんだよね!?」
満面の笑顔で聞かれて笑顔で頷くと、嬉しいとあきらはぴょんぴょん跳ねる。
そのまま二人は部屋へ入ると、ざくろは荷物を置いてあきらの手を引いた。
「あの人、家にいるんだな。出掛けよう?」
母親の事をあの人と言って提案すると、あきらは小さく頷いて机の上に置いてある鞄を手に持った。
そのまま二人で手を繋いで走るように家を飛び出すと、二人はやっと息ができたと言わんばかりに体から力を抜いた。
「あーーー。あの人と会うなんて最悪」
「・・・今日は本当に久しぶりに帰ってきたの」
「・・・あいつも?」
ざくろのあいつと言う人物にあきらは首を横へ振る。
「お父さんはもう二週間ぐらい帰って来てない」
俯いて呟くように教えてくれるあきらにざくろの目が冷たくなった。
久しぶりに帰って来たという母親、そして二週間も帰ってきていない父親。
まだ中学一年生のあきらを一人放置するこの両親にざくろは怒りで顔を顰めた。
「あきら、お腹空いてない?朝ごはんちゃんと食べた?」
話題を変えようとざくろが腕時計を見て聞く。時刻は10時になろうとしていた。
「あ、実は食べてないの。お母さん、7時に帰ってきたから・・・」
口ごもる妹にざくろは奥歯をぎりりと噛み締めた。
あの馬鹿みたいに卑猥な下着姿とあきらが部屋にこもって鍵を掛けていた事。
この二点で母親がいつものように知らない男を家へ入れていた事を知る。
「嫌な思いしたな」
自分の怒りよりあきらの気持ちを汲むざくろは妹の頭を引き寄せて抱きしめた。
「お兄ちゃん・・・・」
安堵するように兄の胸へ顔を埋めるあきらに朝ごはんを食べようと笑って誘う。
あきらもつられるように笑顔で頷くと、二人は手を繋いで何を食べるか話し合いながら歩き出した。
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