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第108話
「お兄ちゃん、お風呂空いたよー」
ハート柄の淡いピンクのパジャマを着て、濡れた長い髪をタオルで拭きながらあきらはリビングへ戻ってきた。
「ありがとう」
笑顔で振り返り、ソファから立ち上がると、うふふと上機嫌に笑う妹に首を傾げる。
「明日、九流先輩のお家楽しみだね」
「粗相しないようにね」
「はーい!」
元気に手を上げて返事を返してくるあきらの頭をタオルでゴシゴシと拭いてやる。
「ん〜。お兄ちゃんに拭いてもらうと気持ちいい」
「甘えすぎ。ほら、風邪ひかないようにね。ちゃんとドライヤーかけて」
「はーい」
大きく頷いて笑うあきらにぽんぽんっと頭を叩くと、ざくろは風呂場へ向かった。
お風呂にゆっくり浸かって今日1日を振り返る。
帰省初日からとても充実した1日でざくろ自身驚いていた。
寮で九流と別れるのが寂しかったが、まさか夕飯を一緒に食べれるなんて思いもしなかったし、まして明日九流の実家へ行けるなんてまだ信じられずにいた。
あきらの彼氏云々には相当へこみはしたもののあまり考えないようにと頭の片隅へ追いやった。
そして、楽しい事だけを考える事に徹した。
明日の事を考えると正直嬉しさにパンクしてしまいそうな自分がいる。
九流へ踏み込み過ぎだと頭では分かっているが、逸る気持ちがどうも抑えられない。
「あっ!お土産!!」
ざくろは九流の家へ行く時の手土産が無い事に気が付いた。
九流は明日の朝の10時に迎えを寄越すと言っていた。
だいたいのお店は全て10時開店のはずで、そうなるとどう頑張っても手土産を用意できそうに無い。
焦る気持ちで頭を悩ませると、一つの案が思い浮かび、ざくろは急いでお風呂から上がった。
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