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第110話

「西條様ですね。お待たせ致しました。猛様の代わりにお迎えに参りました細田と申します」 扉を開くとそこには黒いスーツをかっちりと着こなしたダンディな男前が深々と頭を下げていた。 「今日は、わざわざありがとうございます。宜しくお願いします」 頭を深く下げる兄を見てあきらも同じ様に頭を下げる。 そして、外に停められている高級車の後部座席へ二人はただされるがまま乗り込んだ。 30分ほど車は走ると、とても大きな屋敷の前で停車した。 細田が運転席から降りて後部座席の扉を開いてくれ、車を降りる。 お城のような大きな洋館の家に金持ちだとは知ってはいたがまさかお城に住んでいたとまでは思わなくて兄妹は尻込みした。 呆気にとられていたら、家の門が開いて中から九流が出てきた。 「おはよう。よく来たな」 「おはようございます。今日は招いてくださりありがとうございます」 頭を深く下げ、ざくろは手に持っていた手土産を九流へ差し出した。 「すみません。急でどこも店が開いてなくてこんなのしか用意できませんでした。食べてもらえると嬉しいです」 自分が作ったことは伏せて手渡すと、九流はありがとうとケーキを受け取りそれを細田へ渡した。 「お心使いありがとうございます。西條様、どうぞこちらへ」 細田が広間へ通そうとした時、九流がそれを制してざくろの腕を掴んだ。 「細田、皆んなにはまた後で紹介する。緊張してるだろうし、俺の部屋へ行くからお茶の準備をしろ」 「畏まりました」 九流の命令に細田が丁寧に頭を下げ、お茶の準備をしに下がると九流は掴んでいた手を離して二人を自分の部屋へと案内した。 自分の後ろを明らかに緊張した足取りで付いてくる兄妹が可愛くて、九流は気付かれないように小さく笑った。

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