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第112話
嬉しいと、ぴょんぴょん兎のように跳ねるあきらにざくろは首を傾げた。
「そんなに欲しいものなら、なんで俺に教えてくれなかったんだよ?」
「えー。だって、もう完売商品だったし」
「それでも、俺も人に聞いたりしたのに・・・」
寂しそうな顔をする兄にあきらは申し訳なさそうに上目遣いで見上げた。
「ごめんね。お兄ちゃん・・・」
余計な負担や我儘は言いたくなかったと落ち込むあきらを庇うように九流が口を挟んだ。
「たまたまDVDの話題になっただけだ。俺もここまで喜んでもらえると思わなかったよ」
ぽんぽんとあきらの頭を叩く姿に、相変わらず仲が良いいなと少し不貞腐れるように顔を俯かせたとき部屋の扉が開いて細田がお茶の準備を整え、入室してきた。
「西條様に頂きましたシフォンケーキを開かせてもらっても宜しいでしょうか?」
挽きたての香り高いコーヒーが目の前に置かれ、ケーキ皿を用意した細田はざくろが持ってきた箱からシフォンケーキを取り出す。
「はい!勿論です」
頭を下げながら答えると細田はありがとうございますと丁寧にお礼を告げ、シフォンケーキを切り分けていった。
そして、準備していたケーキ皿に盛ってざくろ達の前へ差し出した。
「いただきます」
最初に手をつけたのは無邪気なあきらだった。
「美味しー!って、これ・・・」
「だめ!」
シフォンケーキを一口食べたあと、ざくろを見て後に続く言葉を口にしようとしたが、兄に口を手で押さえられ押し黙った。
「・・・・何だ?」
コーヒーを飲んでいた九流が不思議そうに聞いてくるのをざくろは首を横に振った。
「な、何でもないです!口に合えばいいんですけど、合わなければ捨てて下さい!」
早口で捲し立てるざくろに九流は訝し気な表情でケーキを一口食べた。
その一連の動作を緊張しながら見つめているとケーキを飲み込んだ九流はにこりと微笑んで感想を述べた。
「美味いよ。そんなに見て何だよ?」
「い、いいえ!お口に合ったなら良かったです」
顔を赤くして、妹から手を離し俯くざくろを横目にあきらがニヤリと笑って暴露した。
「お兄ちゃんのケーキ、美味しいでしょ!」
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