「あきら！」 声を荒げるざくろにいまいち意味が分からず、二人へ視線を向けるとざくろは気恥ずかしそうに俯き、あきらはシフォンケーキをもう一口頬張りながら九流へ教えてやった。 「このケーキ、お兄ちゃんの手作りですよ」 「ざくろの！？・・・お前、ケーキも焼けるのか！？」 「いえっ、あの、その・・・すみません！店が本当に空いてなくて！昨日は夜中だったし、今日は朝が早くて！でも手ぶらなんてありえないし！って、俺の手作りもだいぶ失礼ですよね！捨てて下さい！ごめんなさい！！」 赤い顔で焦りながら言い訳を口にするざくろは椅子から立ち上がると九流のシフォンケーキへ手を伸ばした。 「コラコラ、落ち着け！美味いって言っただろ？」 「社交辞令なのは分かってますから！本当に無理しないで下さい」 「無理じゃねーよ」 目の前でシフォンケーキをバクっと大きな口で食べる九流にざくろは泣きそうな顔を両手で覆った。 「す、すみません！気を遣わせてますね・・・」 どこまでも自分を過小評価するざくろに九流が呆れていると、あきらも不思議そうに顔を顰めた。 「お兄ちゃんのケーキ、私好きだよ？」 「あきらは小さい時からこれで育ってるからそう思うだけ！先輩みたいに良いもの食べてる人には不味いに決まってるの！」 怒ったように言うざくろに九流は溜息を吐く。 「あのなぁ〜、美味しいって言葉そのまんま受けとれよ」 参ったなと呟きながらもケーキを綺麗に全部食べ終えると、九流はお皿をテーブルの上へ置いてコーヒーを一口飲み、まだ納得いかない顔でマゴマゴしているざくろにご馳走様と微笑んだ。 「そういえばあきらちゃん、熱帯魚に興味あるって言ってたよね？リビング前の廊下に大きな水槽で飼ってるんだ。見てみる？」 昨日、あきらと水族館の話になって熱帯魚が見たいと言っていた事を思い出し、九流は話を振った。 あきらはケーキを食べ終えると是非見てみたいと答えた。 すると、九流が近くに控えていた細田へあきらをその水槽の場所へ連れて行くよう命令する。てっきり三人で見にいくものと思っていたあきらは驚いた顔をしていたが丁寧な細田のリードに断る事も出来ず席を立って部屋を出て行った。