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第114話

残されたざくろは気落ちするような面持ちで、残りのシフォンケーキを嫌そうに見つめていた。 「ざくろ」 「はい」 名前を呼ばれ顔を上げると九流は困った顔でざくろへ言う。 「お前は自分を過小評価し過ぎる。もう少し・・・」 「過小評価?そんな事ありませんよ?」 九流の言葉を遮って首を横へ振るざくろに溜息が漏れる。 「過小評価してる。・・・このシフォンケーキだってそうだ。その辺のお店で買うより本当に美味しい」 「・・・気を遣わせてすみません」 「だから、気なんて遣ってないって言ってるだろ?」 「・・・・・」 黙り込んでしまうざくろに何て言えば伝わるのか分からず自分も黙ってしまう。 何を言っても否定的で己を蔑むざくろに次第に苛立ってくる。 「お前さ、一体どうしたいんだ?どうしたら満足するわけ?ケーキがそんなに嫌なのか?」 「・・・・・」 「答えろよ。ここへ来てからお前、全然笑ってねーし。そんなに嫌ならケーキなんて作ってくんなよ!来たくなかったなら来なきゃ良かったじゃねーか!」 「・・・ごめんなさい」 苛立ちが混ざった声で責められ、小声で謝るざくろに九流の苛立ちが増した。 「そんなにここが嫌なら帰れ!ケーキも持って帰ればいい!それで気が済むだろ!」 声を荒げる九流に泣きそうな顔を俯かせたまま、テーブルの上の残ったケーキを乱暴に箱に放り込みそれを抱えた。 「お、お邪魔しました!」 涙声で頭を下げるざくろは顔を上げる事なく九流の部屋から走って出て行ってしまった。

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