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第120話
「は?」
突拍子のないお願いにざくろが気の抜けた声を出すと勇は目の前で手と手を合わせて拝むポーズを取る。
「お願い!俺ね、甘いのが好きなんだ。お菓子とか好きで色々作ったりしては失敗ばかりで成功した試しがないんだよ」
「はぁ・・・」
「甘党ならばこんな、美味しいケーキ一度は作りたいじゃん?ねぇ、教えてくんない?」
必死な弁解とお願いするポーズにざくろは驚いていた顔を徐々に笑顔にする。
「いいですよ。シフォンケーキは簡単だから初心者にもいいかも」
「本当に!よっしゃっ!!じゃあ、俺とキッチン行こ!!!」
ソファから立ち上がり勇は残っていたシフォンケーキをバクっと口の中へ投げ込んでざくろの手を掴みいそしんで部屋を出た。
手を引かれるまま勇について行くと長い廊下を曲がった時、勇の足が止まってざくろは前を歩く背中に激突してしまった。
「いたっ!・・・す、すみません!」
謝って顔を上げると勇の目の前に九流が立っていて息が止まるほど驚いた。
ここが九流の家という事、そして勇が九流の兄という事を自分でも信じられないぐらい忘れていて青ざめる。
「なんで、お前が兄貴といるんだよ。帰ったんじゃなかったのか・・・?」
眉間に皺を寄せて睨んでくる九流にざくろは何て答えていいのか分からなくて勇の服の裾を掴んだ。
その行動が九流の癇に障るとも知らず。
「お前、馴れ馴れしく触ってんじゃねーよ!」
怒鳴り声と共に兄の服を握るざくろの手を払おうとした時、勇がそれを厳しい声で制する。
「猛!」
名前を呼ばれ九流はぴたりと手を止めると兄の顔を睨みつけた。
「こいつ、俺の客なんだけど」
「うん。知ってる。でも、その様子だとお前、ざくろ君のこと追い返したんじゃないのか?帰る途中に俺が引き留めて俺の客として扱ったからお前は下がれ」
「なんだその言い訳。なんで、ざくろが兄貴の客なんだよ!?」
「俺が決めた事だ。とりあえず、もうお前の客じゃない。俺の客だ」
勇は九流へ冷たい声で言うとざくろの手を握って歩き出した。
気まずい雰囲気の中、すれ違うとき小さく会釈すると九流は咄嗟にざくろの空いているもう片方の手を掴んだ。
「こいつから手、離せっ!こいつは俺のもんだ!」
兄へ怒鳴るように九流が言うと勇はゆっくり振り返った。
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