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第129話
「おはようございます。先輩、帰省中はありがとうございました」
次の日、寮へ予定通り戻って来たざくろは九流の部屋へ挨拶に来た。
「あの、これ食べてください」
ニコリと微笑み、ざくろは有名店の高級タルトを差し出してくる。
帰省時、九流家を訪問した時の手土産の件を気にしてのことだろう。
「・・・・ありがとう。中入れよ」
扉を大きく開いて誘われ、会釈と共に九流の部屋へ入った。
九流も今、寮に戻ったばかりで荷物が散乱していてざくろは扉近くで足を止めた。
「すみません。まだ帰って来たばかりで落ち着いてませんよね?また出直します」
遠慮して踵を返そうとするざくろの手を掴んで気にするなとソファまで引っ張っていく。
「飲みもん淹れてやる。何がいい?」
「・・・何でも大丈夫です」
頭を下げて答えるざくろに九流はレモンティーを淹れてやる。
レモンティーを目の前に置かれ、ざくろは目を見張った。
コーヒー好きの九流からレモンティーなど程遠い飲みものが出てくる事に驚いた。
顔を上げると、九流は自分用に淹れたコーヒーを一口飲んでざくろの前へ座った。
「兄貴が言ってた。好きなんだろ?何でも良いじゃなくてレモンティーが飲みたいとかお茶がいいとか、もっと自分の要望を口にしろ」
怒るように言ってくる九流に申し訳なさそうに答えた。
「先輩、こんな面倒な事しないでください。俺に気を遣わないでください」
九流の手を煩わせた事を気にしてるのかざくろの表情が曇った。
それに対して、悲しい気持ちと苛立つ感情に溜息が出た。
「兄貴には教えれて俺には言えねぇのか?」
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