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第168話

結局その日、ざくろは寮へは帰らなかった。 あきらと一緒にホテルに泊まって、妹を抱きしめながら二人でベッドで眠り、朝起きて時間に追われることなくルームサービスの朝食をゆっくりとって過ごした。 「あきら、一度だけ学校に戻るから。退学届も出さなきゃ駄目だし、荷物の処分も必要だから戻るのは明日の朝になると思う。それまでここにいて。今からコンビニで必要なものは揃えておくから。絶対外出しないで!」 父親へお金を渡したことで、暫くは自分達に寄り付きはしないであろうが、拭いきれない不安はあった。それはあきらも同じで、兄の言葉に黙って頷いた。 お菓子にジュース、雑誌など、あきらの為の買い物中、服屋を見つけた。 着替えもないあきらにと洋服を数枚購入し、両手いっぱいの荷物を抱えてざくろはホテルへ戻った。 「ご飯はルームサービス頼むんだよ。ちゃんと食べてね。念のためお金もここに置いとくから。携帯はあるよな?充電器も買っといたから、何かあれば絶対電話して」 ホテルの玄関口で何度目かの注意事項を告げるが、あきらはウザがることなく笑って頷いた。 「出来るだけ早く戻ってくるから」 頭を撫でて言うと、ざくろはホテルを出た。 学校へ戻る為に呼んだタクシーに乗ると、ざくろは携帯電話を取り出す。 「・・・・・」 ディスプレイには九流からと学校からの着歴が何十件もあって苦笑した。 メールも数通きていてそれらを開いて目を通す。 全て九流からのもので、何処にいるのか、また身の安否を心配するものばかりで胸が締め付けられた。 「・・・・・ごめんなさい」 口の中で誰にも聞こえない程の小さな声で呟いた。 そして携帯電話の電源を落とし、瞳を閉じてこれからのことを考え始めた。

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