「お兄ちゃん！」 ボストンバッグ片手にあきらの待つビジネスホテルへざくろは帰ってきた。 チャイムを鳴らすとあきらは覗き穴から誰かを確認して兄と分かると笑顔で扉を開いた。 「遅くなってごめんね。昼ご飯食べた？」 時計を見ると13時を回って、その質問にあきらは首を左右へ振った。 「お兄ちゃんと食べようと思ってまだなの！一緒に食べよう」 「いいよ。何がいい？」 「えっと、お兄ちゃんが好きなのでいいよー」 ざくろが帰ってきたのがよほど嬉しいのか両手をパタパタさせながらあきらは兄に纏わり付いて離れなかった。 「俺は特に好きなものないしあきらが好きなのものでいいよ」 いつものように無表情で答える兄にあきらは少し寂しそうに顔を曇らせた。 「どうかした？」 「え？・・・あ、ううん！なんでもない。じゃあ、ピザは？」 「いいよ」 ざくろがボストンバッグを開きながら頷くとあきらはホテルの備え付けの電話でルームサービスを頼む為に電話をかけた。 注文し終えるとあきらは受話器を下ろしてざくろの手に持つ小さな２つの紙袋を見つめた。 「それって・・・」 「うん。携帯電話。最新のにしちゃった！はい。こっちがあきらの」 本体の色がピンク色の携帯電話を手渡されあきらは固まる。 「それ、番号も新しいやつだから。今の携帯は今日までしか使えないから友達に連絡するなら急ぎなよ」 自分用に買った妹と色違いの白の携帯電話を取り出し、ざくろが充電しながら言う。 「どうして新しいの買ったの？」 あきらの質問にざくろは視線だけを上げた。 「心機一転したくて」 その言葉にあきらは今日、冷静になった頭でずっと考えいたことを口にした。 「九流先輩は・・・」 「もう、別れた。先輩とはもう全くの無関係だからあきらも忘れて。連絡もするな。万が一、連絡が来ても無視して」 九流の名前を出した途端、キツイ口調で凄まれ、あきらは身を固くした。 硬直する妹にざくろは我に返ったのか視線を落としたあと、あきらへ向き合うように体を向けた。 「あきら、あの学校の人達は一般人とはかけ離れた世界の人間なんだ。たまたま知り合いの人の厚意で入学できて、偶然九流先輩と知り合いになれただけなんだ。先輩が卒業したら縁も切れるって覚悟してた。ただ、時期が早まっただけ。ただそれだけだよ。付き合うって言っても大したことなんてしてないしね」 どうってことないと、笑うざくろは向けていた視線をあきらから最新機種の携帯電話へ戻した。