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第182話
綾人は性格が決して良いものでもなかった。
別段悪いわけではないのだが、取っつきやすい容姿と反比例した言動が不一致で取り扱いが難しいと評判なのだ。
高飛車で自由奔放な我儘な性格に加え、自分の魅力を余す事なく熟知した奴で、手加減不要かと思えば子供のように弱みを見せて甘えてくる。
天使のような容姿をフル活用しては鴨になりそうな男を見つけて利用していた。
危うく門倉もその内の一人になりかけた。
いや、もしかしたら現在進行形でなってるのかもしれない。
この学園に入学したのは不幸にも両親が事故死してしまい、親戚の元へ行くのが嫌で寮住まいという条件に釣られて入学したそうだ。
元々裕福だったことに加え、莫大な見舞金が入って金銭的には困っていないようではあった。
九流が綾人のことを何処まで知っているのかは知らないが性格で勝負すると間違いなくざくろの方が良いだろうと門倉は失笑した。
「人間不信な癖になかなか面白い性格の奴を連れてんのはどういった風の吹き回しだよ?趣旨変えか?」
嫌味と皮肉を笑顔でぶつけてくる九流に眉を顰めた。
「俺はお前のように甘くは無い。綾が俺に害をなす存在だと本気で分かれば切り捨てる」
目を逸らして言い切る門倉にワントーン下がった声で九流が口元に笑みを刻んで聞く。
「・・・・・やっとできた本命なのに?」
真を突く質問に門倉は一瞬戸惑ったものの、瞳を閉じて頷いた。
「それ、本気じゃねーんだよ」
前髪を掻き上げて力なく笑う幼馴染みの初めて見せる苦悩な切ない表情に門倉は驚いて目を見張った。
「後戻りできねー・・・、いや、したくないんだ。本気で本当に惚れちまった。裏切られてもいい。追いかけて縋り付いてみっともなくてもいい。あいつが戻ってくるなら土下座でもなんでもする」
自分の知る九流からは到底信じられない台詞にひたすら驚愕しながら親友を見つめる。
「あいつの過去全てを受け入れて愛してるんだ。門倉、助けて欲しい。あいつをすぐに認めなくてもいいから・・・。ただ俺から引き剥がすことはやめてくれ・・・」
切に願うように自分と向き合う九流はデスクに両手を突いて頭を下げた。
「力を貸してくれ・・・」
瞬きすら忘れてしまう事態に門倉はただただ九流を見つめた。
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