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第184話
「あきら、今日も遅くなるけど戸締りはちゃんとしてね」
玄関に座り込んで運動靴の紐を縛りながらいう兄の背中を寂しい気持ちであきらは見つめた。
あれから二人はざくろが不動産屋から借りてきた部屋で生活をしていた。
未成年なのに、どうやって借りたのか分からないが、2DKの部屋を兄は用意してきた。
二人で住むにはとても十分な広さでまだ引っ越して間もないことから戸惑うことは多かったが、あきらは節約しながら生活をしていた。
必要最低限のものは兄が全て揃えてくれた。
兄は夜になると家を出て、朝方に帰って来ては夕方まで自分の部屋で寝るという生活をしていた。
昼間は学校があり、外へ出てしまう自分からすると、夕方しか兄との時間を取ることができなかった。
だが、外出までの数時間も兄は疲れたような様子でまともに会話も出来ず、常に一人ぼっちの状態になっていた。
数日前、出掛け際に何処へ行っているのか聞くとアルバイトだと言われた。
何のバイトなのか掘り下げて聞くと笑顔で躱されて何一つ教えてくれなかった。
「じゃあ、行ってきます」
いつものように笑って今日も自分の頭を撫でてくるざくろにいってらっしゃいと小さく手を振るしか出来ないあきらは、不安が込み上がり悲しみに押し潰されそうになった。
暗くなった夜の街はネオンの光で眩しすぎる。
繁華街へ一歩足を踏み入れると数秒後にはスカウトマンやらナンパやらと沢山の男がざくろを取り囲んだ。
「うひゃー!かっわいい!!!どこの店の子?ってか、女?男?」
「男でも女でもいいや!俺んとこの店で働かない?今の給料の3倍出すよ!?」
「俺のとこは5倍出す!」
わらわらと寄ってきては自分を無視して競りが始まりだす。それをふわりと微笑んでざくろは去なした。
「すみません。通してもらえます?」
営業スマイルを浮かべ、男達を掻き分けて歩を進めるざくろはこれ以上、絡まれないようにと急いでバイト先へと向かった。
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